1月1日の朝を、トム・リドルは暖かな家の中で迎えていた。 マグルの世界では、昨夜から今朝にかけてカウントダウンイベントやニューイヤーイベントなどで盛り上がっているのだろうが、耳障りな騒音もここまでは届かない。 ただ、胸に抱いた愛しい女の穏やかな寝息だけが彼の肌をくすぐっている。 視線を室内へと転じれば、テーブルの上に幾つも並んだ空の皿や、そこら中にふわふわと浮かんでいる魔法で膨らませた風船や、リボンと包装紙と空の箱が床に転がっているのが見えた。 昨日は彼の誕生日だったのだ。 HappyBirthday! HappyBirthday! 嬉しそうに祝うなまえの声が耳の奥に蘇る。 何がそんなに嬉しいのかと不思議に思うほど、彼女は毎年毎年それは嬉しそうに彼の誕生日を祝ってくれるのだ。 (誕生日か……) 腕の中で眠るなまえを抱え直して、リドルは思いを巡らせる。 彼には誕生日を祝ってくれる母も父もいない。 生まれた時からずっとそうだったから、今までそれを不満に思った事も、寂しいと感じた事もなかった。 しかし──。 「トム…?」 腕の中の温かな塊がもぞりと動いた。 肌と肌が擦れあい、交合の時の官能的なそれとは違うこころよさをリドルに与える。 「もう起きてたの?」 早いね、と微笑んだなまえは、不意に驚いたようにほんの少し目を見開いた。 「なんだ?」 「あ……ううん、何でもない」 怪訝そうな顔をするリドルに向かってなまえは首を振り、身を伸ばして彼の唇にキスをした。 「おはよう、トム」 「ああ」 悪戯してくる手から身をよじってクスクス笑う。 いつも通りのリドルだった。 さっき──ほんの一瞬、なまえにはリドルが泣いているように見えたのだ。 しかし、瞳の端が潤んで見えたのはどうやら気のせいだったらしい。 「来年は猫を飼おうね」 「もう一匹いるだろう。僕の名前をつけたヤツが」 リドルがうんざりした顔で言う。 「うん、だから、“トム”のお嫁さんを飼うの」 「お前と同じ名前の猫をか」 「うん、そう」 なまえはリドルに身体をすり寄せて目を閉じた。 幸せな未来を思い描きながら。 |