「まだハンストを続けているのか」 入ってくるなり呆れた声を出したのは、いまやヴォルデモートの名で知られる恐怖の帝王だ。 かつてのクラスメイトであるその帝王に攫われて、私はこの屋敷の地下にある『特別室』に監禁されている。 ここへ連れて来られてから、私は一切食事に手をつけていなかった。 「強情だな。いい加減諦めたらどうだ」 口をつぐんだまま首をぶんぶん横に振る。 これはせめてもの抵抗だ。 拷問でもなんでもしたらいい。 けれども、ここへ連れて来られてから私がされた事と言えば、無理矢理身体を開かされたぐらいで、どんな魔法も暴力もふるわれていなかった。 だからつい錯覚してしまいそうになる。 彼に、愛されているのではないかと。 だからこれはそんな馬鹿なことを考えつしまう自分への戒めでもあるのだ。 「そうか。残念だな。お前の好物ばかり用意させたのに」 トレイを持ったまま動けずにいる召し使いをよそに、彼は楽しそうに笑う。 「腹が減っているだろう」 「お腹なんて…」 ぐー きゅるきゅるきゅる…… 「…!!」 匂いに反応してお腹が鳴ってしまった。 横から、くっと笑う声。最悪だ。 「貸せ。僕が食べさせる」 召し使いから食事の乗ったトレイを受け取ると、彼は私の隣に腰を下ろした。 美味しそうな匂いがますます近付く。 そして激しく反応する私のお腹。 「ほら、口を開けろ」 拒否権は無かった。 おずおずと開いた口に運ばれるシチュー。 口の中に入ってしまえば飲み込むしかない。 そして飲み込んでしまえば、もう止まら無かった。 「そうだ、それでいい」 素直にぱくぱく食べ始めた私を見て笑う彼は、なんて魅力的なんだろう。 学生時代に比べてシャープさが加わった美貌はいっそ凶悪なくらいだ。 それが強固なはずの決意をゆるがせ、私の牙城を崩しにかかる。 「いい子だ」 私の口元を指で拭って、彼はふっと笑った。 左手を取られる。 「褒美をやろう」 何か冷たいものがするりと指を滑る感触。 薬指にはめられたそれは、銀色に輝くリングだった。 「誕生日おめでとう、なまえ」 優しい声音に泣きそうになる。 トム トム どうしてこんな事になってしまったの 泣いて訴えてもきっとさらりとかわされるだけだと分かっていても、魂の底から沸き上がってくる悲痛な叫びは、私の喉から嗚咽になって溢れだした。 私を抱く腕はあたたかいのに、彼の心は冷たい憎悪と復讐心に凍りついてしまっている。 「泣くな」 抱きしめられ、ぽんぽんと背中を叩かれる。 彼の腕の中にいる間、どうしても涙が止まらなかった。 |