もうすぐ本格的な夏がやってくる。 夏期休暇を目前に、試験を終えたばかりのホグワーツの生徒達は思い思いの場所で骨休めをしていた。 湖の畔には女生徒の一団が足を水につけて涼んでいたし、近くの茂みでは真面目な男子生徒が試験の答え合わせをしている。 その反対側、他からは灌木と木立の陰になって見えない場所にトム・マールヴォロ・リドルとなまえの姿があった。 他者に邪魔されず寛げるここはリドルの特等席だ。 そこに並んで腰を下ろし、読書をしていたリドルは、傍らのなまえが小さく声をあげたのを聞いてそちらに目を向けた。 「どうした?」 「蛇が……」 見れば、細く小さな蛇が近くの木の下をのたうつように動いていた。 なまえは怯えたようにリドルに身を擦り寄せている。 「こんな小さな蛇が怖いのか?」 「び、びっくりしただけ。だって急に出てくるんだもの」 リドルは瞳を細めて蛇を見据え、唇を開いた。 そこからシュウシュウと息を吐くような音が漏れる。 小さな蛇はまるでリドルに何事か語りかけられているのを聞いているように首をもたげていたが、やがて身をくねらせて草むらの中に入っていった。 パーセルタングだ。 パーセルタングで蛇を従わせたのだ。 一部始終を見ていたなまえはごくりと喉を鳴らした。 見るのは初めてではないが、強い畏怖の念にかられる光景だ。 彼は特別な存在なのだと思い知らされる。 背中を冷たい汗が流れ落ちていく。 「怖いか」 リドルが聞いた。 今度は蛇のことではないとなまえにもわかっていた。 ここで嘘をついても仕方がない。 「怖いけど、好きなの」 自分でもどうしようもなく。 彼の全てに魅力されている。 「それでいい」 リドルは機嫌良さそうに微笑んでみせた。 そうするとハンサムな顔が惚れ惚れするほど魅力的に見える。 顎に指をかけられて顔を上向かされてもなまえは抵抗しなかった。 むしろ恍惚とした表情で目を閉じて受け入れた。 いずれ闇を統べる帝王となる男の口付けを。 |