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魔法界の肖像画は、まるで絵の中で人が生きているかのように話すことが出来る。
しかし、それはただ単に描かれた人物の生前の思考や行動をなぞっているだけで、そこに本物の魂が宿っているわけではない。

そんな偽りの生ではなく、より完全な形で“自分自身”を残すこと。
その方法を探す事にトム・リドルは多くの時間を費やした。

そうして見つけ出した方法こそ、分霊箱だ。

分霊箱とは、魔法使いが殺人という行為により自らの魂を引き裂き、その断片を魔法器に納めることで魂を保存する魔法のことである。
分割された魂が無事であるかぎり、肉体が滅ぼされても死ぬことはない。
限りなく不死に近い能力を得ることができるのだ。

「幼なじみのよしみで教えてやろう」

情事の後の、甘く気だるい時間。
眠りに落ちる寸前の穏やかなひととき。
私の腿を這うように撫でながら、トムは言った。

「分霊箱は7つ作る予定だ。7という数字には強力な力がある」

それは先ほどまでの甘く激しい行為の余韻を吹き飛ばすほど恐ろしい宣告だった。
7つ。
つまり、最低でも7回もの殺人を犯すと彼は言っているのだ。

弛緩した私の身体に彼は気付いただろうか。

私とトムは同じ孤児院出身の幼なじみだ。
彼の支配的な性格も、“死”に対する極端な忌避もよく知っているつもりだった。
だから、私は彼が幸せになってくれるように、様々な努力をしてきた。

それは脚がつかない水の中で必死に藻掻いているようなものだった。
すごく苦しいけど、手足を動かし続けていないと沈んでしまう。
すぐ目の前に岸があるのに、そこに確かに彼が居るのが見えるのに、どんなに頑張っても辿り着けない。
水中から必死に手を伸ばしても、こちらに背中を向けて立っている相手にはどうやっても届かない。

その事に唐突に気がついてしまった。
私がやっているのは全く無駄な努力だったのだ。

「どうした。泣いているのか?」

トムの手が私の濡れた目元を拭う。
その涙をどう思ったのか。

「相変わらず怖がりだな。心配しなくてもいい、上手くやるさ。僕を信じろ」

シーツの上から優しく背中を撫でられる。
その手つきの優しさとぬくもりに、ますます涙が溢れた。

私の愛では彼を救うことは出来ない。

そんな絶望的な考えが頭の中を満たしていく。

私の想いは報われなくてもいい。
ただ、彼に幸せになって欲しかった。
それだけなのに。

「泣くな、なまえ」

優しげな声で命令したトムの唇が、宥めるように頬や額に落とされる。

誰か──誰か、彼を助けて。
お願いだから彼を救って。

抱きしめてくるあたたかい腕に包み込まれて、私はただ震えながら祈ることしか出来なかった。


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