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ホグワーツで出される食事にも大分慣れてきたが、ハギスだけはまだどうしても食べられない。

私が知る英国がそうであるように、ここでもやはり朝と昼にがっつりした食事が出て、夕食は軽いものであるのが常だった。
だから、大抵ハギスは昼間に出てくる。

「またか」

ハギスが盛り付けられた皿を前に固まった私に、トム・リドルは軽くため息をついた。
そして、私の前から皿をどかして、代わりにチポラータソーセージが何本も入った皿を置いた。
見るからに美味しそうで、自然と頬が緩む。

「これなら食べられるだろう」

「うん、ありがとう」

ほっとしてお礼を言えば、彼はちらりと私を見てから隣に腰を下ろした。
他にも空いている席はあるのに、わざわざ私の隣に。

「好き嫌いがあるなんてダメだよね。直さないといけないとは思ってるんだけど」

「僕もハギスは好きじゃない」

リドルはそう言うと、シェパードパイをナイフとフォークで切り分けて食べはじめた。
その所作の美しいこと。
とても孤児院出身だとは思えない。
プライドの高い彼のことだ、きっと誰にも馬鹿にされたくなくて必死にマナーを身につけたのだろう。
それこそ、貴族であるアブラクサス・マルフォイに見劣りしないくらいに。
スラグホーン先生お気に入りの彼は、先生主催の特別な食事会にも招かれている。
そこでもきっと王子のように堂々と振る舞っているのだろうと容易に予想がついた。

カボチャジュースを飲む彼を熱い眼差しで見つめている女の子達に、出来ることなら真実を教えてあげたい。

彼はある意味確かに偉大な人物となる。

魔法界を震撼させる、恐ろしい闇の帝王に。

思わず教員達のテーブルのほうを見ると、こちらを見ていたダンブルドア先生と目が合った。
先生は、私の秘密を知る唯一の協力者だ。
先生の計らいにより、私は先生の親戚ということになっている。
校長も教員も生徒も、皆それを信じて疑うことはなかった。

ただ一人を除いては。

トム・リドル。

彼だけは、私とダンブルドアの関係を疑っている。

彼が私に親切にしてくれるのは、監督生として慣れないホグワーツでの生活を心配してのこと。
表向きは。
しかし、実際には、私が何者なのか怪しんでいて、親切なふりをして近付き、気を許したところでボロを出すのを待っているのに違いない。
そうに違いないのだ。

「脂がついてる」

親指の腹で優しく唇を拭われ、それをぺろりと舐め取るリドルを見て、私は身構えた。

「可愛いな、お前は」

だからそんな風に微笑まないで欲しい。
ダンブルドアの視線を感じながら、戸惑う私をまるで猫にするように髪を撫でつける彼は、本当に残酷な男だ。

決して好きになってはいけない人。

そんな私の悲愴な思いを知ってか知らずか、彼はまるで恋人のように私に接してくる。

「いい加減慣れろと言いたいところだが、その反応も気に入っているからどうしたものかな」

「か、からかわないで…!」

「ああ、お前で遊ぶのは実に楽しい」

もし可能なら、今すぐ元の世界に戻りたい。

私が彼を本気で好きになってしまう前に。


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