どんなに努力しても評価してもらえないこともある。 当たり前のことかもしれないけど、自分より優秀な人が褒められているのを見るのは苦しい。 私も頑張ったのに!と叫びだしたくなる。 今がまさにその状況だった。 頑張ったのに認めてもらえなかった。 褒められたのは他の子だった。 「それで拗ねていたのか」 「…優等生にはわからないよ」 ぐすん、と鼻を鳴らす私のすぐ傍らに腕を組んで佇むトム・リドルには一生理解出来ない感情だと思う。 胸を焦がす劣等感も、承認欲求が満たされずに泣き喚きたくなるような焦燥感も。 そんな卑屈な思いに浸っていたら、リドルが屈み込んで私をやんわりと抱き寄せた。 良い香りのするリドルの胸に抱きしめられる。 「馬鹿な奴だ」 言っていることは辛辣だが、抱きしめる腕はあたたかく、優しい。 よしよしと背中を撫でられて、涙が溢れ出てくる。 「泣くな」 「ふぇ…」 「この僕が慰めてやっているんだ。いい加減泣きやめ」 そんなことを言われると、ますます涙が止まらなくて困った。 「結果は残念だったが、お前が頑張っていたのを僕は知っている」 世の中は結果が全てだと言って憚らない実力主義のリドルの思わぬ言葉に、ようやく涙が止まる。 「リドルが優しい…」 「だからお前は馬鹿だと言うんだ。僕がお前に優しくなかったことがあったか?」 「いつもいじめられてるよ」 「あれは愛情表現だ」 「意地悪ばかり言うし」 「楽しいからな」 「ふえぇ…ふえぇ…」 「うるさい。泣くな」 いかにもうっとうしそうにため息をつきながらも、背中を撫でてくれる手は優しい。 「お前には僕がいる」 リドルが静かな声で言った。 「他の人間の評価など気にするな。お前の価値は僕だけが理解していればいい」 肩を掴まれて顔を上げさせられる。 リドルの瞳が一瞬紅く輝いたように見えたのは気のせいだろうか。 「他の奴を見る必要はない」 「う、」 「僕だけを見ていろ」 威圧感におされて、こくこくと頷く。 涙はとっくに引っ込んでいた。 「もう泣くな」 唇を重ねられて、うっとりと目を閉じる。 甘いキスは涙の味がした。 この甘くて苦いキスを、私は生涯忘れられないだろう。 リドルの優しい腕のぬくもりも。 |