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続いて、カウンターの脇に置かれていた煤払いでパタパタと頭やローブについた煤を払うと、リドルは改めてドアのほうへと向き直った。
ちょうど、店主らしき男がガラガラとドアについたベルを鳴らしながら入って来るところだった。

「やあやあ、リドル君!すまなかったね」

猫背の男は耳障りな声で言うと、せかせかとカウンターの中へと入っていった。
何やらガサガサと紙袋から取り出しては、カウンター下の戸棚にそれをしまっているらしい。
リドルの後ろに立つなまえからは、屈み込んだ男の脂で撫でつけた髪しか見えなかった。

「いや、助かったよ。店番なんて、いつもは誰かに頼む事は無いんだが──あー…君なら問題無いと思ってね」

「勿論です。それに、僕のほうも良い勉強になりますから、気にしないで下さい」

いかにも好青年風の笑顔と声でリドルが愛想よく答える。
なまえへの態度とはまるで違うそれは、ホグワーツの教師達に対する「優等生のリドル」のものだ。

リドルがチラリとなまえを振り返り、目だけで笑う。
下手に出ているように見えて、実際にはこの店主を見下しているのだとわかった。

「じゃ、約束していた通りお礼を……おやっ、そちらのお嬢さんは?」

カウンターの向こうで立ち上がった男が、猜疑心と好奇心に満ちた眼差しでなまえを見る。

「同級生です。この後彼女と買い物に行く約束をしていたので、わざわざ様子を見に来てくれたようです」

動揺した様子もなくリドルがぬけぬけとついた嘘に、男は「ハハァ」と言ってニヤリと笑った。

「ガールフレンドとデートの約束があったとは知らなかった。それは悪い事をしたね。さあさあ、もう解放してあげよう。これを持って行きなさい」

男が布で包まれた品を取り出してリドルに手渡す。

「有難うございます、バークさん。大切に使わせて頂きます」

男から渡された包みを見て、一瞬、リドルの瞳が赤く光った気がした。
だが、退室の挨拶を交わしたリドルがなまえを出口へと促したので、直ぐにその疑念は消えてしまった。

薄暗くゴミゴミした通りに出て、貰った包みをローブにしまったリドルを改めて見上げる。

「今から…デート、なの?」

「言ったのは僕じゃない。勝手にあの男がそう解釈しただけだ」

さらりと言って、リドルは歩き出した。
なまえも慌てて隣り並んで歩き出す。
怪しい露店が並ぶ通りを横切り、曲がりくねった階段を上りながらリドルがこちらを見た。

「ダイアゴン横丁で何を買う予定だった?」

「えっと…教科書と、羽ペンと、魔法薬の材料と……」

「金は?」

なまえが首を振ると、「そうか、じゃあまずはグリンゴッツだな」と呟く。
当たり前のように。
なまえはびっくりしてリドルの整った顔を見上げた。

「付き合ってくれるの?」

「また迷子になったら困るだろう。僕も、そうそう都合よくお前を見つけてやれる訳じゃない。面倒に巻き込まれてもいいのか?」

汚らしい紫色のフードを被った老婆が、ブツブツ独り言を言いながらなまえを見つめているのを見て、ゾッとしつつ首を横に振る。
もし、一人だったら…と思うと、今更ながらにリドルと偶然出会えて幸運だったのだと実感した。
よっぽど怯えた顔をしていたのか、離れるなよ、と笑われる。
なまえはリドルのローブの袖をちょこっと握って、彼に身を寄せた。

「今度から、煙突飛行を使って出掛ける時には、先に僕に連絡しろ」

「うん」

こうして、リドルに付き添われて無事ダイアゴン横丁に出たなまえは、そのままリドルにエスコートされて必要な買い物をし、ウィンドウを眺めて歩きながらたわいのない会話を楽しみ、最後はカフェテリアでアイスクリームを奢って貰ったのだった。
まさに飴と鞭。


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