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だがしかし、甘かった。

意気洋々と寮を出たまでは良かったが、なまえは10分と経たないうちにルシウスがあれほど心配していた理由を思い知らされていた。

通路を走るなまえの背中にひやりと冷たいものが走る。
自分に向けられて放たれた呪文を察知したなまえはとっさに反応した。
間一髪で呪いを避け、直ぐ横の空き教室へ飛び込む。

誰がやり始めたのか、校内は他の生徒を追い落とそうとする為に仕掛けられたらしいトラップだらけだった。
おまけに血の気の多い生徒などは、他寮の生徒と見るやここぞとばかりに呪いを打ってくる始末だ。
しかも、初めから宝を見つけられないと諦めている者にいたっては、他人の妨害をしてはいけないというルールが無い事を逆手に取り、率先して襲ってくる。
さすがにあからさまに危険な呪文を使用した者は教師に失格処分を受けていたが、それでも少女一人で歩き回るには、今のホグワーツは危険なことこの上ない状況になっていた。

「きゃっ…!」

不意に背後から伸びて来た腕に引き寄せられ、なまえは誰かの胸にぽすっと倒れ込んだ。
その直後、緑の光線がさっきまで彼女がいた場所を掠めて飛んでいく。
驚くなまえの懐から誰かの手がすっと杖を抜き出し、呪いを打って来た相手に向けて杖先が向けられた。

「Petrificus Totalus!」

なまえの耳元で冷たい響きの呪文が聞こえたと同時に、「ぎゃっ」と短い悲鳴と何か重い物が床に落ちたような音が響いた。

「さっきのはナメクジの呪い、か……幼稚な呪いだ。ナメクジ姿のお前も見てみたい気もしたが、他寮の生徒に負けるのは元スリザリン寮生として黙って見ている訳にもいかないだろう?」

「トム…!」

間近で見下ろす真紅の瞳と、黒炭のように黒い髪。
恩人の正体がわかり、なまえはリドルの首に抱きついた。

「やれやれ…相変わらずの甘ったれようだな」

普段は黒猫に身をやつしている闇の帝王の分身は、そんな少女の喜びように唇を僅かに歪めて笑った。

「ルシウス、これには僕がついていく。それでいいな?」

なまえを片腕で抱き返しながら、リドルが手にした小さな手鏡に向かって話し掛ける。
鏡の向こうに複雑な表情をしたルシウスの姿が浮かび上がるのを見ると、リドルは相手の返事を待たずに手鏡を閉じた。
そのまま、なまえの懐にそれをしまう。

まだ手に持ったままの杖は、このまま使うつもりなのだろう。

「さて…」

なまえの杖を手の中で弄びながら、教室の外へ目を向ける。

「お前一人の時は妨害を避けるだけで精一杯だったようだが、これからは安心して探せるはずだ。くだらない遊びとは言え、スリザリンの名誉の為にも、参加する以上優勝を目指して貰う。いいな?」

こくっと頷くと、リドルはちらりと笑みを見せてなまえに教室から出るよう促した。


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