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日本ならきっと今頃猛暑だ。
でも、英国の夏は私の身体にはそれほどダメージを与えるものではなかった。
慣れてしまったというのもある。
むしろ、最近結ばれたばかりの旦那様の顔色の悪さのほうが気がかりだ。
もっと栄養があるものを沢山食べさせないと。

そんなことを思いながら私は窓に目を向けた。

いつもならこの時期に来ているはずの、新学期に使う教科書などを知らせるホグワーツからの梟便が今年は届いていない。
それもそのはず。私は今年の春ホグワーツを卒業したからだ。

7年の間毎年来ていたものが来ないというのは何だか奇妙な感覚だった。
それは寂しさにちょっとだけ似ている。

もう私は大人で、学生ではないんだと、こうした些細な事柄でも実感するのだ。

でも、もっと、私を今までとは違うと実感させてくれることがある。

「もうお母さんになるんだね……」

そうっと撫でた腹部は、まだ目立って膨らんできてはいない。
まだまだこれから大きく育っていくはずの、小さな命。

最近は無意識の内によくお腹に手で触れることが多くなったけれど、それはスネイプ先生も同じだった。
夜眠る前や、外出から帰った時などには、私のお腹に恐る恐る優しく触れて、我が子の成長を確かめている。

先生はもう私にとっては“先生”ではないのだけど、長年の習慣というものはなかなかすぐには変えられない。
私はまだ彼を時々先生と呼んでしまうが、そのたびに、いつもは無愛想なその表情がくすぐったそうにピクリと動くのが楽しくて、ついわざと呼んでしまったりもする。

先生。
魔法薬の授業。
応援にエキサイティングしたクィディッチに、遅くまで暖炉の前で過ごした寮の談話室。
想い出が詰まった懐かしいホグワーツ。

今度こそはっきりと寂しさを含んだ懐かしさの波に襲われて、私はほんの少しだけ涙ぐんでしまった。

「どうした」

丁度部屋に入ってきた彼に、目元を拭ったのを気付かれてしまった。

「ううん、幸せだなぁと思って」

スネイプ先生は……セブルスは。
ちょっと怪訝そうな顔をしたものの、私が微笑むと近くにやって来て、私の前に膝をついて屈み込んだ。
そのまま私のお腹にそっと頬を寄せる。

「我輩もだ」

小さく呟かれた言葉に、先ほどまでとは違うあたたかい感情で胸がいっぱいになって、私はまたしても涙ぐんでしまった。

「みんなで幸せになりましょうね」

セブルスの頭を両腕で優しく抱きしめて囁く。

外では夏の陽射しがきらめいていた。


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