色も形もバニラの茎にそっくりな薬草を出来るだけ細かく刻み、銅製の鍋の中にそっと落とし入れる。 さすがに匂いまではバニラそっくりとはいかなかったものの、代わりに鍋からは香ばしい湯気がほわほわと立ちのぼった。 そこへ、こちらは胡麻によく似た植物の種をすり潰したものを適宣加える。 必要な材料を全て入れ、鍋の中身を柄杓でゆっくりと掻き混ぜれば、透明だった中身が徐々に透明感のある飴色へと変わっていった。 色といい、香りといい、今日の魔法薬はだし汁みたいだ。 まるで料理をしているような気分になる。 午前最後が魔法薬なんて最悪だ、と誰かが言っていたけれど、まったく同感だ。 お昼前にこれはマズイ。 お腹が鳴りそうになるのを必死に耐えねばならなかった。 ぷりぷりして歯を立てると肉汁が飛び出すソーセージや、喉ごしすっきりな甘いカボチャジュース。 焼きたてのパンやシェパードパイの味と映像を頭から追い出そうと躍起になっていると、スネイプがやって来た。 見回りの順番が来たのだ。 マントの裾が教室の固い石の床を滑る音が近づいてくる。 無心に鍋をかき混ぜ続けていると、すぐ背後に立ったスネイプが肩越しに鍋を覗き込んだ。 彼の黒い髪が首筋を掠める。 その感触にほんの少しゾクッとした。 「素晴らしい」 熱の籠った声音で一言だけ褒め、スネイプはさっと顔をあげると首を巡らせて他の生徒達を見回した。 「皆も彼女を見習うように。誰とは言わんが、心当たりのある者は特に。先ほどから酷い悪臭がしているのは我輩の鼻が悪いせいであることを願いたいものですな。そういった飲み物が好みだというならば別だが」 ネビルが耳まで真っ赤になって項垂れた。 さざめきのような忍び笑いが教室に広がる。 「今日の魔法薬は、匂いも味も『うまそうだ』と感じられるものでなければならない。香りは胡麻を炒ったように香ばしく、色は透明に近い飴色であることが望ましい。味は……本人に実際に飲んで確認して貰うのが一番だろう」 これにはネビルのみならず、教室の三分の一ほどの生徒達の顔色が変わった。 特に、おかしな刺激臭がしていたり、鍋の中身がネズミ色になっていたりする者達は、明らかに不安そうに顔を青ざめさせていた。 「味見した結果どうなるかは自己責任だ。その結果、何人かがトイレに駆け込み、何人かが医務室に厄介になる事になったとしても」 絶望に満ちたうめき声があがる。 「──さあ、時間だ。各自小瓶に詰めて提出したまえ。味見を忘れるな」 ざわめきとともに教室内が慌ただしくなった。 スネイプは完全に楽しんでいる。 「君は味見する必要はない。我輩が保証しよう」 小瓶に中身を移そうとすると、柄杓を握っていた腕をスネイプに掴まれた。 彼はそのまま柄杓で鍋の中身を掬って一口飲んでみせた。 「後でレポートを持って来たまえ。結果発表の際に見本として披露する」 「はい、先生」 ポケットからハンカチを取り出してスネイプの濡れた唇を拭いてやると、彼は何だかむず痒そうな顔をして、それから「紅茶はどの銘柄が好みかね?」とぶっきらぼうに尋ねてきた。 |