雛祭りの日。 もう夜がすぐそこまで迫っている時刻になって、ようやくアトラクションに乗る順番が回ってきた。 今乗ろうとしているのは、ハリーポッターの世界を再現したアトラクションだ。 ホグワーツ城を模した建物の中にあることで有名だった。 「楽しみだね」 「超ワクワクする!」 同じ列に座ることになった女の子達の会話を聞きながら、私も張り切って乗り込む。 程なくしてアトラクションが開始された。 CMなどで見てはいたが、実際にこの目で見て体験するのは大違いだ。 臨場感があり、とても楽しかった。 終わりが呆気なく思えてしまうほどに。 アトラクションを降りて、ホグワーツ城内そっくりに作られた通路を歩いていく。 すると、前方に一匹の黒猫が現れた。 「猫?こんな所に?」 ペットの持ち込みは不可だったはずだけどな、などと思いながら近づいていくと、黒猫はこちらをちらりと見てから歩きだした。 少し歩いては振り返り、まるでどこかに案内しようとしているように見える。 「どこに行くの?」 尋ねてみても答えが返ってくるはずもない。 ただ、赤い瞳に誘われるままに城内を進んでいく。 と、曲がり角を曲がったところで向こう側から歩いてきた誰かにぶつかってしまった。 「すみません!」 返って来たのは日本語ではなかった。 それが英語であると理解し、改めて英語で謝罪の言葉を繰り返す。 「待て」 そのまま通り過ぎようとした腕を掴まれる。 「何者だ。どうやって城内に入った?」 「え……は?」 よくよく見てみれば、それはよく知っている人物だった。 ただし、映像の中で。 あるいは、物語の中で。 ただ、映像で見ていたよりも若い。 役者さんが三十路くらいだったならこうだろうという感じの容貌だ。 セブルス・スネイプ教授。 その人が私の腕を掴んで、何者かと尋ねてきている。 私はすっかり混乱してしまった。 とっさに英語が出てこない。 そして思い出した。 あのアトラクションにまつわる、ある噂を。 “ゾロ目の日にハリポタのアトラクションに乗ると本物のホグワーツに行けるらしい” まさかあの噂が本当だったとは。 「言葉がわからないのか?」 あわあわしていると、スネイプ教授は、面倒なと言いたげな表情でそう呟いた。 「校長に確認してもらうか」 その独り言にハッとした。 「ダンブルドア!」 思わず叫んでいた。 「ダンブルドア校長に会わせて下さい!お願いします!」 そうだ。ダンブルドアなら。 今の状況を説明してわかってくれそうな相手は彼しか思い浮かばなかった。 「ついて来たまえ」 不審そうな顔をされたものの、とりあえず校長のところへ連れて行ってくれるらしい。 少し希望が見えて来た。 前を歩く、黒いマントの後ろを見つめながら思う。 必ず助けてみせる。 必ず。 絶対に。 そのためにも、今はダンブルドアに会って協力を求めなければ。 こうして私の孤独な戦いは始まったのだった。 |