休日の朝はイングリッシュブレックファーストと決まっている。 これはホグワーツにいた頃からの慣習だ。 ホグワーツでは屋敷しもべ妖精達が作ってくれていたが、今は自分で用意している。 スクランブルエッグにソーセージ、ベーコン、ハッシュドポテト、焼きトマト。 トーストは二枚。トースターで焼いたものにバターをつけて。 支度が整ったところで、夫を起こしに行く。 一緒に暮らすようになって、朝が弱い彼を起こすのがすっかり日課になってしまった。 教師をしていた時はちゃんと自分で起きていたのに、と思いながら寝室に向かう。 安心しきった穏やかな寝顔に、何だか起こすのが気の毒になりつつも、毛布の上から軽く揺すって起こしにかかった。 「セブルス、起きて」 「…もうそんな時間か」 呟いて目を覚ましたセブルスが手を伸ばしてきたので、大人しく引き寄せられてキスをする。 「おはよう、マユ」 「おはよう、セブルス」 夫婦になって一年が経つけれど、このやり取りがまだちょっと照れ臭い。 いつまでも彼は私にとって“スネイプ先生”なのだ。 「朝食の支度出来てるよ」 「わかった」 ベッドから起き上がったセブルスが顔を洗いに行くのを見届けてから、キッチンに戻り、その間に紅茶を淹れておく。 杖でコンコンとヤカンを叩くと、すぐに湯が沸いた。 こういう時、魔法が使えると便利だ。 まだセブルスほど上手に紅茶を淹れられないが、自分ではかなり上手くなったと思う。 紅茶の用意が出来たところでタイミングよくセブルスがやって来た。 ダイニングルームのいつもの椅子に陣取ったのを見て、私も席につく。 「いただきます」 挨拶をして朝食を食べ始めた。 セブルスは早速紅茶を飲んでいる。 それから彼は、朝食に手をつけた。 トーストをかじり、ベーコンを食べる。 彼が教師だった時には、教員用テーブルにいる彼を遠くから眺めるだけだったが、今は目の前で食べているところを見られる。 コツコツ、と窓ガラスを叩く音がして、見ると、窓の向こうで梟が片足を上げて待っていた。 窓を開けて、水の入った皿をやり、足から日刊予言者新聞を受け取る。 ホグワーツにいた頃はそれこそ眉唾ものの内容も混ざっていた日刊予言者新聞だが、キングズリー・シャックルボルトが魔法省大臣に就任して以降はかなりまともになっていた。 大袈裟すぎる表現もなくなり、事実だけを淡々と伝える内容になっている。 セブルスは今のビジネスライクな日刊予言者新聞が気に入っているようで、毎日朝食時に欠かさず目を通していた。 「食べ終わってからにしてね」 「ああ」 最後のソーセージを食べ終えると、セブルスは日刊予言者新聞を読み始めた。 紅茶を飲みながら、誌面を目で追っている。 「屋敷しもべ妖精についての新しい法案が可決されたらしい」 「ハーマイオニーが活動していたやつ?やった!」 友人の手柄に、手を叩いて喜ぶ。 きっとその内ハーマイオニーから長い手紙が届くことだろう。 結婚してからも、彼女とは定期的に近況を報告しあっている。 結婚式にもみんなと一緒に出席してくれた。 今でも大切な友人の一人だ。 「本当に、本当に、おめでとう。幸せになってね」 そう言って涙を流してくれたことを忘れない。 彼女とロンが結婚する時には、是非お祝いをさせて貰いたいと思っている。 「かつての優秀な生徒の功績についてコメントは?」 「特にない」 セブルスは紅茶を飲んで、苦い顔をした。 「それよりも、ネビル・ロングボトムが教師になった事に我輩は懸念を抱いている」 「ネビルならきっといい先生になれるわ」 「だといいが」 「心配?」 「君は心配ではないのかね?」 セブルスは日刊予言者新聞をテーブルの上に畳んで置いて、私を見た。 「我輩達の子供がホグワーツに通うようになった時に、安心して預けられる場所であることを願うのは当たり前だろう」 「それは子供が欲しいということでしょうか、スネイプ先生?」 「君との子供ならば」 セブルスはすまして言った。 それからニヤリとして、 「休日だからゆっくり過ごそうではないか」 雨も降っていることだし、とよくわからない理屈をつけて寝室に連行されてしまった。 でも、新婚夫婦なんてどこもこんな風だと思う。 とにかく、今はハーマイオニーが願ってくれた通りに、毎日がとても幸せだった。 |