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ホグワーツの事務員。
今の私の立場を端的に表すとソレである。
こうなるまでに色々とあったのだが、それは割愛させてもらおう。
それよりも今考えねばならない、由々しき問題があるからだ。

「これは日本の祭りで着るものなのだろう?」

「はあ、はい」

何故、スネイプ教授が浴衣を持っているのか。
そしてそれを何故当然と言わんばかりに私に突き付けているのか。

「マユ、君ならば着付けも出来るだろう。着せてくれたまえ」

「お言葉ですが、先生。これを着せるためには先生に下着姿になって頂かなければいけません」

そんな恥ずかしい真似出来ますか?
出来ないでしょう?
という意味をこめてドヤ顔で言ったところ、スネイプ教授は少し眉を上げただけで「問題ない」とのたまった。

「問題なくないでしょう!恥ずかしくないんですか!?」

「今更だろう」

ぐっと言葉につまる。
そうなのだ。スネイプ教授とはいわゆるそういう関係なのである。
裸なんてとっくに見慣れている仲だ。

「私が恥ずかしいんです!」

つい本音をもらしてしまった。
だって、パンツ一丁のスネイプ教授の身体に腕を回したりしなければならないのだ。
そんなの恥ずかしすぎる。

「そうだったな、君はセックスの時も、」

「わー!わー!わー!」

話題が不穏な方向に傾きかけるのを大声で遮ることで阻止した。

「わかりました!やらせて頂きますっ」

「そうか、では頼む」

こうして突如としてスネイプ教授の私室で、『日本の伝統的浴衣の着付け方教室』が開かれたのだった。

「どうですか」

「ふむ、なかなか着心地がいい」

浴衣を着せられたスネイプ教授は満足そうに頷いてみせた。
私はというと、色々なものが吹っ切れた代わりに疲れきっていた。
改めてスネイプ教授を見る。

漆黒の浴衣に紅い格子模様の入った浴衣が、不思議と似合っていた。
鏡の前で一通り検分したスネイプ教授は、私に向かって何かを差し出した。

「君の分だ」

「えっ」

女性用の浴衣だ。
それを受け取って戸惑っていると、

「早く着たまえ。間に合わなくなるぞ」

「どういうことですか?」

「日本の縁日とやらに連れて行ってやろうと言うのだ。早くしたまえ」

「は、はいっ」

私は慌てて着替え始めた。
もちろん、スネイプ教授には後ろを向いてもらって。

途中何度か振り返ろうとするのを叱りつけながらも、なんとか浴衣に着替え終えた。

「ほう」

「…なんですか」

「悪くないな。美しい浴衣だ」

「そうですね。綺麗な浴衣ですね」

「拗ねるな。似合っていると言っているのだ」

「ありがとうございます…」

スネイプ教授が時計を見る。

「時間だ。行くぞ」

「はい」

「フルーパウダーで汚すのはしのびないな」

そう言いながら暖炉に向かう。
こんなに気軽に日本に行けるものなのかと思っていたら、事前に色々と手続きを済ませていたらしい。
出来ればその時に教えて欲しかった。

「我輩のサプライズプレゼントはお気に召さなかったのかね?」

「いいえ、嬉しいです」

スネイプ教授は一瞬笑みを見せると、暖炉に入った。
フルーパウダーを振りかけながら目的地を口にした途端、その姿が炎の中に消える。

彼に続く私の頭の中では、既にお囃子が鳴り響き始めていた。


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