その人を連想させるものとして"匂い"がある。 まるでその人を象徴するかのように身体に染み付いた、複数の薬品や薬草が混ざった独特の匂い。 そして、紅茶の良い香り。 その二つに今包まれている。 「誕生日おめでとう、マユ」 「ありがとう…セブルス」 「まだ慣れないのかね?」 「だって、仕方ないじゃないですか」 呼び慣れていないのだ。 今まではずっと“スネイプ先生”だったのだから。 こんな日が来るとは思ってもいなかった。 自分はただ、彼に生きていて欲しかっただけなのだ。 彼の長年に渡る想いや葛藤も知っている。 だからこそ、自分と彼がこんな関係になるとは想像もしていなかった。 「我輩の奥方は、まだ我輩の愛を信じられないらしい」 「だって…」 「愛している、マユ。何度伝えても足りぬほどに」 切々と訴えられて、瞳が揺れる。 「もう…反則です」 「あいにく手段を選んでいる余裕がないのでね」 ふん、と鼻で笑ったスネイプが顔を傾ける。 目を閉じてそれを受け入れる。 キスをしながら指を絡めると、マリッジリングの冷たい感触がやけにはっきりと感じられた。 これが現実なのだと告げるように。 甘いキスに身を任せる彼女の頬を一筋涙が伝い落ちた。 ───── HappyBirthday to you |