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せっかくの晴れた5月のホグズミード行きの休日に、わざわざ残って呪文の練習をしている自分を誰か褒めてほしい。
そういささか自虐的なことを考えつつ、マユは再び誰もいない中庭に向かって杖を振り上げた。

「アグアメンティ!」

誰もいなかった、はずだった。
しかし、杖から噴き出した水は、ちょうど回廊から中庭に出てきたスネイプ教授に直撃してしまった。

「…ミス・ミツキ」

「す、すみません!」

頭からずぶ濡れになってしまったスネイプが濡れた髪の下からマユをじろりと睨む。

「ホグズミードにも行かず呪文の練習をしていたのは感心だが、注意力が足りないようですな」

「はい…すみませんでした」

しゅんとするマユを見据えたスネイプは、無言呪文で乾燥の魔法をかけた。
たちまち水分が蒸発して彼の全身から湯気がたちのぼる。
スネイプは乾いた髪を無造作に掻きやった。

「凄いです!先生!水も滴るいい男があっという間に!」

「調子のいいことを…罰則を免れたと思わないことだ」

スネイプは唇の端を持ち上げると、くいと顎をしゃくってみせた。

「来たまえ。我輩が直々に指導してやろう」

「は、はい」

マントを翻して歩き出したスネイプのあとをマユは小走りで追いかけた。

着いたのは地下牢教室の先にあるスネイプの自室。

「入りたまえ」

キョロキョロと興味深そうに辺りを見回すマユを中に入れ、スネイプはドアを閉めた。
カチリと小さな音が響いたが、マユはそれに気づかない。

「座れ」

マユに椅子に腰掛けるように促し、スネイプはやかんを杖で軽く叩いた。
しゅんしゅんと音をたてて沸いた湯を、ティーポットに入れる。
既に茶葉が入っていたのか、辺りに紅茶の良い香りが漂いはじめた。

「先生、今のどうやったんですか?」

「魔法で紅茶を淹れたことは?」

「ありません。両親ともマグルなので。初めて見ました」

「なるほど」

スネイプは紅茶をカップに注ぎ入れた。

「知っての通り、原則として食べ物の類いは魔法では生み出せない。だが、世の魔法使いは魔法を使って料理をしている」

わかるかね?と尋ねられ、マユは首を振った。
ホグワーツでの生活以外で魔法使いの日常というものをマユは目にしたことがない。
そんなマユにスネイプは料理に使う魔法があることを教えてくれた。
調理道具などに魔法をかけることで料理が出来るのである。

紅茶を勧められ、それを飲みながら特別講義を拝聴していたマユは感心しきりだった。

「本当に杖で何でも出来るんですね」

「出来ないこともあるが、まあ大抵のことは何とかなる。それが魔法族だ」

マユは、はあ…と感嘆の溜め息を漏らした。

「ところで、先ほど君が言っていたことだが」

「はい、先生」

「あれは本心か?水も滴るいい男だと」

「えっ、あ、あのっ」

「我輩も君を憎からず思っている。つまり、合意の上だと解釈して構わんのだな?」

「せ、先生…?」

勘の良いことだ。
青ざめたマユは腰を浮かせて椅子から立ち上がろうとした。

スネイプは素早く動いた。
すなわち、逃げようとするマユの退路を壁に突いた腕で塞ぎ、驚いて声をあげようとした彼女の唇を自身の唇で塞いだのである。

「んーっ!んんー!」

尚ももがくマユを腕の中にしっかりと囲い込んだスネイプは、怯えて縮こまる舌を探りあててそこに己の舌を絡めた。

蛇が獲物を捕らえる時にそうするように。


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