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6月も半ばを過ぎれば、ホグワーツもそろそろ初夏の気候に変わってきており、湖の畔で水遊びをする生徒の姿も見られるようになってきた。

5年生はO.W.Lが終わったばかりということでぐったり脱力している者が多い。
試験前は神経質になってピリピリしていたからその反動なのだろう。

皆は暑い暑いと言うが、私はそれほど暑さは感じなかった。
日本のじめじめした蒸し暑さに比べればどうということはない。

夏になったら、と皆は言う。
待望の夏休みがもうすぐやって来る。

「先生、スコーンを焼いたので一緒にいかがですか?」

「また厨房に入り込んだのかね」

「もうすっかり常連です」

スネイプ先生は呆れた顔をしたが、すぐにお茶の用意をしてくれた。
陰険だなんだと言われているけれど、懐に飛び込んでしまえば優しい人なのだ。

もうひとつ付け加えると、先生の淹れる紅茶は物凄く美味しい。

「もうすぐ卒業だな」

「寂しくなりますか?」

「馬鹿を言いたまえ。貴重な静寂が戻って来て清々する」

「素直じゃないなあ」

思わず笑ってしまったせいで、先生はしかめっ面になってしまった。

「いいかね、ミス・ミツキ。まだ我輩と君は教師と生徒だ」

「はい、わかっています、スネイプ先生」

神妙に返事をすれば、こほんとひとつ咳き込む。

「我輩が言いたいのは」

「はい」

「卒業までの時間は貴重だということだ。せいぜい悔いの残らないように過ごしたまえ」

「だから、こうして先生と最後のお茶会を楽しんでいます」

「それで後悔せずに済むというなら好きにするがいい」

「はい、先生」

言うべきことを言い終えたからか、先生はスコーンを手に取ると、クロテッドクリームとジャムをつけてそれを齧った。
唇についたクリームを赤い舌が舐めとる。
私はその様子をセクシーだなあと思いながら眺めていた。

「先生、私、伊達に厨房に入り浸っていたわけじゃないんですよ。一生懸命料理の勉強をしていたんです」

「知っている」

「えっ」

「屋敷しもべ妖精の間で話題になっている。熱心に厨房に通って料理を習っていると」

「みんなのお陰で大分料理の腕が上がりました」

「そうかね」

「楽しみにしていて下さいね、先生」

「期待せずに待つとしよう」

「本当に素直じゃないなあ」

私は笑って左手の薬指に嵌められた婚約指輪を撫でた。
先生の視線を感じる。
先生もきっと同じ気持ちで指輪を見つめているのだろう。

「夏が楽しみですね、先生」

「そうだな」

今度は意地悪をしないで素直に頷く先生。
そんな先生が好きで好きでたまらない。

夏になったら。

私は荷物を持って先生の家にいき、先生の家のキッチンで先生のために料理を作る。

夏休みを楽しみにしているのは私も同じだった。


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