イギリスの夏は過ごしやすい。 気温もそれほど上がらないし、何より日本に比べて湿気が少なく、空気がカラッとしているからだと思う。 注意すべきなのは昼夜の温度差だ。 夜は寒いくらいなので羽織る物が必要になる。 日本と同じ感覚でいたら失敗するのは間違いない。 かくいう私も失敗したクチだ。 「う〜、寒い!」 慌てて荷物をひっくり返したのだが、どうしてもカーディガンが見つからず、仕方なく毛布にくるまっていると、ノックの音が室内に響いた。 「どうぞ」 「…この真夏に、毛布にくるまるほど冷え込んでいるかね?」 ドアを開けて入って来たスネイプ先生が眉を上げて尋ねてくる。 「だって日本と全然違うんですもの」 こんなに寒いと思わなかったんです、と訴えれば、先生はやれやれといった風にため息をついた。 それから持っていたカップを渡してくれる。 「飲みたまえ」 香りだけでわかる。 ミルクと蜂蜜をたっぷり加えたキャンブリックティーだ。 「スネイプ先生…」 「少しは身体が温まるだろう」 「ありがとうございます…!」 この人のこういうさりげない優しさが好きだ。 ハリーなどは随分穿った見方をしているようだが、是非こういう一面を見てセブルス・スネイプという人物を評価し直してほしいと思う。 その点、聡明なハーマイオニーはちゃんと公平な目で見て尊敬の念を抱いてくれているみたいで嬉しい。 「先生は優しい人だって、もっとみんながわかってくれるといいのに」 思わず呟くと、スネイプ先生は小馬鹿にしたようにフンと鼻を鳴らした。 「我輩を優しいなどとふざけたことを言うのは君くらいのものだ」 「先生は優しいです」 「その割には、昨夜も、いや、だめです、と抵抗ばかりしていたな」 「そ、それとこれとは話が別ですっ」 「我輩は優しくしているつもりだが?」 「〜〜〜先生!」 わかっている。 これは照れ隠しなのだ。 優しい、なんて言われて照れた先生がわざと私を言葉攻めして恥ずかしがらせているのである。 「さあ、冷めてしまわぬ内に飲みたまえ」 先生は唇の端を持ち上げて笑った。 確かに冷めてはもったいないので、急いでカップに口をつける。 やはり、甘い。 濃密な甘さを持つ液体が喉を滑り降りていく。 こく、こくん、と飲みほしていけば、たちまちお腹の辺りからほかほかとしてきた。 「いかがですかな?」 「とても美味しいです」 「では、我輩も頂くとしよう」 「えっ」 身体に巻き付けた毛布ごと抱き上げられる。 「なに、すぐに熱くなる」 猫撫で声で言って、先生は私をベッドの上に下ろした。 激しく打ちはじめた心臓のせいで胸が苦しい。 先生の吐息が首筋を撫で、ぞわりと快感が背筋を走り抜けていく。 「甘く狂おしいほどに熱く、な……」 |