ホグワーツの冬を舐めていた。 というか、ここに来る前は映像や文章でしか知らなかったので、実際に体験してみるまでいまいち実感が沸かなかったのだ。 そしてやって来た、ホグワーツで迎える初めての冬。 とにかく寒い。 洒落にならないほど寒い。 ブランケットにくるまって暖炉の前でぶるぶる震えていたら、明日の予定を伝えに来てくれたスネイプ先生に奇妙なものを見る目で見られてしまった。 「今夜はそれほど冷え込んではいないと思うが」 「こ、これでですか!?」 信じられない。 生きて春を迎えられるか怪しくなってきた。 「日本の冬は」 「寒いですけど、ここまでじゃないです」 イギリスからかなり北上したから、位置的にはスコットランドになるのだろうか? とにかく、ここは毎日雪は降るわ積もるわで、特に朝晩は尋常じゃなく冷え込む。 生徒達は子供だけあって順応が早いのか、雪を楽しむ余裕さえあるようだが、今まで日本の四季しか知らなかった大人の私にはとても耐えられそうにない。 「仕方のない奴だ」 スネイプ先生はため息をつくと、軽く杖を振ってテーブルの上に何かの瓶とマグカップを出した。 恐らく先生の部屋から転送したのだろう。 先生は瓶の中身をマグカップに注ぎ、私に手渡してきた。 「飲みたまえ」 「は…はい」 マグカップに口をつけて一口飲むと、濃密な甘さが口内に広がった。 そのまま飲み干すと、お腹がカッと熱くなり、身体がぽかぽかと暖まってきた。 「蜂蜜酒だ。我輩には甘すぎるが、君にはちょうど良かろう」 「凄く美味しいです!それに身体があったかくなってきました!」 「眠れそうかね?」 「はい。ありがとうございました、スネイプ先生」 素直に感謝の気持ちを伝える。 先生は素っ気なく頷いただけだが、心配してくれたのは間違いない。 優しい人なのだ。 リリーの息子のハリーを命がけで守ろうとしている。 そのハリーがしかるべき時が来たら死ななければならないとも知らずに。 そして、その前に自分が命を落とすということも。 「明日の予定だが」 明日の予定を伝える先生の言葉を頭に刻みつけながら、心の奥で決意を固める。 この人を守ってみせる。 絶対に。 今はまだ授業のお手伝い程度しか出来ないけれど、私にしか出来ないことが必ずあるはずだ。 私は未来を知っている。 それだけが私に許された唯一の武器。 全ての知識と知恵を総動員して必ずこの人を守ってみせる。 「今日はいつになく熱心に聞いていたな」 スネイプ先生が感心したように言った。 「いつもそうならば何も問題ないのだが」 「いつもは先生に見とれているので」 「馬鹿なことを…」 スネイプ先生はフンと鼻で笑うと、重そうな黒いマントをバサリと翻した。 「酔っ払いは早く寝たまえ。酒が効いている内に」 「はい。そうします」 笑って言えば、やはり酔っ払いの戯言と思われたのか、先生は少し呆れた顔をして部屋を出て行った。 不器用な人だ。 「絶対に死なせない」 私は覚悟も新たに呟くと、ベッドに上がり、ブランケットにくるまったままシーツの中に潜り込んだ。 先生がくれたぬくもりを抱きしめるように身体を丸めて目を閉じる。 死の運命に逆らうには、今の私はあまりにも非力だった。 それでもやるしかない。 まだ身体をあたためてくれている先生の優しさにすがるように眠りに落ちた。 もう寒さは感じなかった。 |