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重たいお腹を庇いながら何とか家事を終えると、私はふうと一息ついた。

家事が全く出来ないと勝手に思いこんでいたスネイプ先生は意外にも独りで大抵のことはこなせる人だった。
なので、積極的に手伝おうとしてくれてはいるのだが、安定期に入った今はなるべく身体を動かしたほうが良いとアドバイスされていたため、可能な限り家事は私がやることにしていた。

スネイプ先生は不満そうだったが。

妊娠して以来、彼は過保護になった気がする。
気持ちはわからなくもない。
やっと出来た家族を失いたくないのだろう。
だからなのか、こちらが面食らうくらい大事にしてくれる。
私も。お腹の赤ちゃんも。

この世界にやって来た時は、こんなことになるなんて思ってもみなかった。

私は、あの人が生き延びて幸せになってくれるだけで良かったのだ。
まさか、そこに自分という異物が彼にとって大切な存在としてその後の彼の人生に組み込まれることになるとは思いもしなかった。

「そろそろ帰って来るかな」

落ち着かなければいけないのはわかっているが、どうしてもそわそわしてしまう。
今日は先生の誕生日なのだ。

あの大広間での最後の戦いから約8ヶ月。
命がけの重責から解放された先生が、初めて家族と迎える誕生日。

今日が先生にとって今までで一番幸せな日だと思える一日にしてあげたい。

とりあえず、ご馳走とケーキは用意した。
普段、甘いものはあまり食べない人だけど今日くらいは食べてくれるだろう。
二人分だから小さいし。

部屋も飾り付けようかと思ったけれど、嫌がるだろうなと簡単に予想が出来たので派手な演出は諦めた。

そうしている内に玄関の鍵を開ける音が聞こえてきたので、急いで玄関に向かう。

「お帰りなさい!」

「ああ、ただいま」

黒いマントを身体に巻き付けるようにして外から帰って来た先生は、お腹を押さえつけないように気をつけながら私を軽く抱きしめた。

「変わりはないか?」

「はい、順調です」

「わざわざ出迎えなくとも良いと言っているのに…無理せず座って待っていたまえ」

「だって、家族ですから。お出迎えするのは当たり前ですよ」

えへん、と胸を張ると先生は微妙な表情を浮かべた。
思わず笑ってしまいそうになったのを我慢しているような。
そんなにおかしなことを言っただろうか?

「それより、先生」

「なんだ」

「ハッピーバースデー、スネイプ先生」

「…ああ」

「忘れてましたね?」

「誕生日を祝う歳でもなかろう」

「そんなことないですよ。今日は先生が生まれてきてくれた、大事な日です」

スネイプ先生の眉間に皺が寄る。
困らせたいわけではないのに。

「生まれてきてくれてありがとうございます、スネイプ先生」

「…君はいつまで我輩を先生と呼ぶのかね」

「だって、スネイプ先生はスネイプ先生ですから」

「君は我輩の妻だ。もうすぐ子供も生まれるのに?」

「…善処します」

料理とケーキをテーブルに運んで、よいしょと椅子に座ると、先生は絨毯の上に跪いて私のお腹に頬を寄せた。
そして僅かに口元を綻ばせる。

「我輩への最大のプレゼントは今日も元気そうで何よりだ」

「名前、考えておいて下さいね。先生」

「プリンスとプリンセス、どちらももう考えてある」

待ちきれない、とばかりに優しくお腹を撫でてくれる。

もうすぐ会えますよ、先生。


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