ホグワーツにいた時にやりたくても出来なかったこと。 それは、炬燵を使うということである。 でも、新居に移った今なら実現出来る。 ここは電気が通っていて、マグルの電化製品が使えるので。 私が炬燵の準備をする間、セブルスは興味深そうに見守っていた。 仕上げに座椅子を入れる。 「もう入ってもいいですよ」 私が炬燵布団をめくって見せると、セブルスは言われるままに炬燵に入った。 「ほう…これはなかなか」 どうやら気に入ってもらえたらしい。 「このまま読書をしてもいいですし、寝っ転がるのもいいですよ」 「なるほど」 セブルスに本を取ってくれと言われたので、はいはいと本棚から言われた本を取り出して手渡す。 「紅茶を…いや、この場合は日本茶が良いのか?」 「好きなほうでいいと思いますよ」 「では、すまないが日本茶を頼む」 「はーい。今用意しますね」 温かいほうじ茶と蜜柑を持って行くと、セブルスは座椅子にゆったりと背を預けて本に見入っていた。 既に炬燵の魔力の虜になっているように見えるが、どうだろう。 「お蜜柑剥きますね」 「ああ」 蜜柑の皮を剥いて、その実をセブルスの口元に持っていく。 薄い唇が開いて、ぱくりと蜜柑を食べた。 「ふむ…」 もぐもぐと蜜柑を食べる姿が妙に可愛らしい。 ホグワーツの生徒達に見せてあげたいくらいだ。 私も炬燵に入っていたら、何だか眠くなって来た。 ちょっとだけ、と思いながら目を閉じる。 これも炬燵の魔力のひとつだ。 目の前には好きな人がいて、蜜柑を食べながら読書をしている。 それを感じながら、暖かい炬燵でうとうとと微睡む。 ああ…幸せだなあ。 「…眠ってしまったのか?」 セブルスの声が聞こえる。 けれど、眠くて返事が出来ない。 「この何気ない日常がこの上なく幸せに思えると言ったら、君はらしくないと笑うのだろうな」 笑ったりしませんよ。 あなたが幸せでいることが何より嬉しいのだから。 「愛している、マユ」 ああ、ずるい。 それはちゃんと起きている時に言って欲しかった。 先生、好きですと伝えたいのに、もうまぶたが重くて持ち上がらない。 見えないのに、何故かセブルスが微笑んでいるのがわかる気がした。 |