「今日も冷えますね」 底冷えのする寒さというのか、重ね着をしていても寒さに震えそうになる。 地下牢教室でこれなのだから、外は相当だろう。 用事がない限りなるべく外には出ないようにしているが、春までそれを続けるわけにもいかない。 可能なら冬眠でもしたいくらいだ。 「我輩の部屋でホットチョコレートでもどうかね」 「是非!」 そんな時にスネイプ先生からの願ってもない嬉しい申し出だった。 先生の私室も地下にあるけれど、暖炉が赤々と燃えているお陰か、入ってすぐに暖かいと感じた。 先生の匂いがするこの部屋が好きだ。 「う〜、あったかい」 暖炉の前で手をかざして暖まっていると、スネイプ先生はその間に手早くホットチョコレートを作ってくれた。 マグルの世界ではミルクにチョコを入れてレンジでチンだが、それよりももっと早い。 杖でカップをコツコツ叩くだけで沸騰するのだから。 「魔法って便利ですね」 「何を今更」 スネイプ先生の返事は素っ気ない。 元々愛想の良い人とは言えないので気にならないが。 しかし、たまには優しくしてくれてもいいのではないかと思わずにいられない。 (私は先生のためにこの世界に来たんですよ) トリップしても、都合の良い展開が待っているわけではなかった。 英語だって必死に覚えたし、魔法もそうだ。 最初から上手くいったことなんてひとつもない。 でも、だからこそ、努力なくして良い結果は得られないとわかっている。 スネイプ先生を必ず助ける。 私はきっとそのためにこの世界に来たのだから。 「そういえば、今朝、梟便でバレンタインカードが届きました」 「ほう」 ホットチョコレートをふうふう吹き冷まして飲む。 とろりとした液体は甘くて美味しい。 「『何事にも努力を怠らない君を見ている』そう書いてありました」 「物好きもいるものだな」 スネイプ先生が飲んでいるのもホットチョコレートだ。 今日という日に、紅茶ではなくチョコレートにした理由は、きっと。 「我輩の所にも、今朝、無記名でバレンタインカードとチョコレートが届いていた」 「そうなんですか」 「このホットチョコレートは、そのチョコレートを溶かしたものだ」 「そうなんですか」 「我輩にはやるべきことがある」 スネイプ先生は私を見ていた。 開心術を使う時のように、真剣で真っ直ぐこちらの心を抉り出すみたいな、強い眼差し。 「だが、それが終わった時には」 「ホットチョコレート美味しいです、先生」 「…そうか」 ふ、と先生の唇が僅かに弧を描く。 全てが終わったら、きっと、いえ、必ず。 幸せになりましょうね、先生。 |