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ハリー・ポッターのお話が大好きだった。
原作はもちろん全巻揃っているし、映画のDVDも全てある。

初めて見た時から夢中になったその物語の中に、今自分がいることがまだ信じられない。
まるで夢でも見ているみたいだ。

「まるで夢でも見ているような顔をしているな」

思っていたことを言い当てられてしまった。

「言っておくが、開心術は使っていない。君はわかりやすいのだ」

なるほど。
だが、わかりやすくても仕方がない。
だって本当に嬉しいのだから。

「憧れのスネイプ先生とこうしてお茶をご一緒出来て光栄です」

「そうかね」

「夢にまで見たお茶会ですから!」

「たかが茶を一杯如き振る舞ったくらいでそこまで喜ばれると、いささか気味が悪いですな」

ああっ!それでこそスネイプ先生っ。
感激でうち震える私を、スネイプ先生は奇妙なものを見るような目で見ている。
そんな視線も堪らない。

「まあ、早起きなのは良いことだ。これからもこの調子で頑張りたまえ」

「はい!スネイプ先生」

昨日は興奮してなかなか寝付けず、今朝はあり得ないほど早起きしてしまった。
早朝から魔法薬の仕込みをしていたらしいスネイプ先生のお手伝いをしたら、お礼にとお茶をご馳走になったのだった。

初めて入ったスネイプ先生の私室は、スネイプ先生と同じ匂いがした。

壁面の棚に並んだ不気味な中身が入っている瓶の数々。
暖炉で赤々と燃える火。
デスクの上に置かれた書類らしき羊皮紙の山。

視覚と嗅覚をフル活用して、この部屋の情報を記憶しようと頑張っている。
何しろ、いつ、どんなタイミングで元の世界に戻ってしまうかわからないので。
大好きなスネイプ先生本人のことはもちろん、先生に関わる全ての情報を事細かに記憶してから帰ろうと決意していた。

「君はそう簡単に元の世界に戻れると思っているのか」

「何となく、大丈夫かなあと」

「楽観的すぎるな。時空の裂け目だか何だか知らんが、一方通行だと考えたことはないのかね?」

「悪いほうには考えないようにしています」

「なるほど」

スネイプ先生は呆れるべきか感心するべきか迷っているような微妙な表情でお茶を注いでくれた。
その上から、蜂蜜をたっぷり入れて、キャンブリックティーにしてくれる。

「飲みたまえ」

「ありがとうございます」

温かい紅茶を、ふうふうと吹き冷ましてから少しずつ味わって飲む。
想像していたよりもずっと甘くて美味しい。
何より温かいので、身体の芯からぬくもっていく。
3月のホグワーツは早春というにはまだ早すぎるほど冷えるのでありがたい。

「もういつ死んでもいいです」

「そう簡単に死なれては困る」

スネイプ先生が冷徹に告げた。

「我輩はダンブルドアから直々に君のことを頼まれているのでな」

「お世話をおかけします」

「まったくだ」

素っ気ない言い方だが、現在に至るまでのスネイプ先生の私に対する扱いはすこぶる紳士的だった。

ダンブルドア校長に頼まれているからというのももちろんあるだろうが、先生自身が根っからの英国紳士なのだと思う。

「英国紳士なスネイプ先生…ハァ…」

「用が済んだら早く帰りたまえ」

追い出されてしまった。

でも、先生が本当は優しい人だっていうこと、私はちゃんと知っていますからね!


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