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「夏に暑そうな格好をするスネイプ先生もすき!」

「何を馬鹿なことを。それより、準備はいいかね?」

「はい、たぶん」

なにしろ煙突飛行は初めてなので、何がどう大丈夫なのかわからない。
とりあえず覚悟は出来ているので、そう伝えると、スネイプ先生はフルーパウダーを一掴みして暖炉に入った。

「ダイアゴン横丁!」

ぼふん!と煙と光が巻き起こり、スネイプ先生の姿が消える。
私もフルーパウダーを掴んで暖炉に入り、同じように叫んだ。

「ダイアゴン横丁!」

粉にむせずに上手く言えたと思う。
その証拠に、気がつくと目の前にスネイプ先生が立っていた。
恐る恐る暖炉の中から出る。

初めて訪れた『漏れ鍋』は、イギリスによくあるタイプの古いパブといった感じだった。
実際、『漏れ鍋』の撮影はバラマーケットにあるパブで行われたらしいので、この見解は間違っていないはずだ。

近くのテーブルで飲んでいた男性が、暖炉から出てきた私をちらりと見たが、それだけだった。
彼らにとってはこれが日常なのだ。

「こちらだ。来たまえ」

スネイプ先生について行き、裏庭に出る。
そこには映画で見た通り、煉瓦造りの壁があって、スネイプ先生が杖でコツコツと叩くと、まるで寄せ木細工のからくり箱が開くように煉瓦が移動してダイアゴン横丁への入口が現れた。

「まずはグリンゴッツですか?」

「いや、必要な代金は校長から預かってきている」

「トロッコ乗ってみたかったです」

「次の機会にな」

スネイプ先生は素っ気なく言って歩き出した。
私はその半歩後ろから先生のあとをついていく。

ダイアゴン横丁は想像以上の賑わいだった。
そこそこ便利な駅のある街で一番人気の商店街と言えば雰囲気が伝わるだろうか。
とにかく活気に満ちている。
そして、道を行く人々を見ていて気がついた。
ひとえにローブと言っても、色も微妙に違うし、一人一人着こなし方が違う。

「まずは着る物が必要だな。いつまでもその服でいるわけにもいくまい」

「ありがとうございます」

「我輩は校長に頼まれた仕事をしているだけだ」

相変わらずツンデレなスネイプ先生が真っ先に向かったのは、マダム・マルキンの洋装店だった。
普段着から式服まで揃っているというその店に着くと、愛想の良いおかみさんがすぐに対応してくれて、私はそこで普段着を何枚かと防寒用のマント、下着や靴下などの細々したものを買って貰った。
私が迷っていると、マダムが親切に教えてくれたので、困ることはなかった。
優しい世界だ。
私が着替える間、スネイプ先生は興味が無さそうにむっつりと黙ったまま待っていてくれた。

「先生、どうですか?」

「普通の魔女に見えないこともない」

「とてもよくお似合いですよ」

感想とも言えない感想を述べたスネイプ先生に代わり、マダムが褒めてくれる。
スネイプ先生は代金を支払うと、またすぐに店を出て歩き出したので、私は彼のあとをついていった。

オリバンダーの店で杖を買い、女性用の日用品を売っているお店で化粧品なども揃えた。
そうして何件か回る内に、あっという間に荷物が増えていく。
スネイプ先生が荷物を全部持ってくれようとしたので、止めるのが大変だった。
さすが英国紳士である。

「先生、暑くありませんか?」

「問題ない。君は暑いのかね」

「ちょっと疲れちゃいました」

「では、休憩するとしよう」

スネイプ先生が向かったのは、なんと、フローリアン・フォーテスキューのアイスクリーム・パーラーだった。
まさかここをチョイスするとは思わなかったので意外だ。

「好きなものを頼みたまえ」

「ありがとうございます」

お言葉に甘えて、私はアイスを頼み、先生はアイスティーを。
二人、向かいあってテーブルにつく。
パラソルの下は日陰になっているから少しだけ涼しい。

見るからに暑そうだが、スネイプ先生は汗だくにはなっていなかった。
何かの魔法を使っているのかもしれない。
今度教えて貰おう。

「久しぶりに外出したが…」

スネイプ先生が私を見ないまま言った。

「悪くはなかった。君のお陰だ」

「私のほうこそ、今日はありがとうございました。スネイプ先生とお買い物出来てとても楽しかったです」

「…そうか」

ほんの僅かに微笑んだスネイプ先生に、心臓がドキッと跳び跳ねる。

「食べ終わったなら、帰るぞ」

「はい!」

ここには、ちゃんと帰る場所がある。
何よりも、スネイプ先生が『帰るぞ』と言ってくれたことが嬉しくて。
私は天にものぼる気持ちのまま、スネイプ先生のあとをついて歩いて『漏れ鍋』へと向かった。

私達のホグワーツに帰るために。


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