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着ている服が自然発火しそうな暑さだと思った。
さすが日本の夏はイギリスと暑さの質が違う。

こちらのほうが故郷であるはずなのに、知らず知らずの内に身体は向こうの気候に慣れてしまっていたらしい。

日本でしか買えない食材やら薬草やらを買い込んで帰る途中なのだが、行き倒れてしまいそうな暑さだ。
私が子供の頃はこんなに暑くなかった気がする。
もうおぼろ気な記憶なので正確なところはわからないけれど。

「行き倒れる前にその荷物を渡したまえ」

「セブルス…?」

暑さのあまりついに幻覚が見えるようになったのかと思ったら、本当に本物のセブルスだった。
彼の後ろから現れた子供達がわっと群がって来る。

「お父さんがお母さんを迎えに行こうって」

「お父さんねぇ、お母さんがいないと何も手につかないって、ずっとそわそわしてたんだよ」

「こら、お前達」

余計なことを言うんじゃない、と怒られた子供達が、きゃーっと私の後ろに隠れる。
その隙にセブルスが私から荷物を奪っていった。

「帰るぞ」

「はい、あなた」

私がセブルスにくっついて歩き出すと、子供達もクスクス笑いながらついて来た。

「お母さん、お父さんがお母さんが帰って来たら花火をしようって」

「日本の花火なんでしょう?棒の先で火花がパチパチするやつ」

「私、あれ大好き」

「うん、帰ったらみんなでやろうね」

子供達を見ているとホグワーツでの日々が懐かしく思えてくる。
彼女達はいままさにホグワーツに通っているのだが、夏期休暇で家に戻って来ているのだ。

長い戦いは終わった。

かろうじて命を繋いだセブルスは、校長職を退き、隠居生活を送ることになったのだが、それは私との新たな生活の始まりだった。

そうして生まれたのがこの子達だ。

生徒達に恐れられていたあのセブルス・スネイプが、いまでは娘達にメロメロなのだから、世の中なにがどうなるかわからないものだと思う。

「どうした。疲れたのかね」

「暑くて、ちょっとぼーっとしちゃった」

「熱中症かもしれん。早く帰って休みたまえ」

荷物を片手にまとめて持ったセブルスが、空いた手で私の腰を抱いて支えてくれる。
それを見た子供達が嬉しそうに笑って、セブルスの手から少しずつ荷物を奪っていった。
重いだろうに、よいしょよいしょと一生懸命運ぶ姿がいじらしくて涙が出そうになった。
セブルスと結婚した時には自分達に子供が出来る未来なんて想像もつかなかったけれど、良い子に育ってくれて本当に良かった。

「ねえ、私、いまとても幸せ」

「我輩は常にそう思っている」

「セブルスも?」

「君と結ばれてから、いつも」

その言葉を聞けただけで今まで頑張ってきた甲斐がある。
私が生まれてきて今までしてきた努力の全てが報われた気がした。

「セブルス、愛してる」

セブルスはちらと辺りを気にする様子を見せたが、

「我輩のほうが君の何倍も愛している」

と自慢気に言った。

子供達が「キス!キス!」とはやしたてる。
まさかそこまではしないだろうと思っていたのに、セブルスは上体を屈めるようにして私にキスをした。

「これはお使いのご褒美だ」

子供達が期待に満ちた目でセブルスを見上げる。
セブルスは子供達にも一回ずつキスをしてあげていた。
あのスネイプ教授が良き父親になったものである。

ああ、幸せだなあと心から思った、夏の日の午後。

この幸せな日々がいつまでも続きますように。


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