夏の間に起こったあの出来事。 あれは悪い夢だったのだと信じたい。 ホグズミード駅から馬車に乗り、ホグワーツに向かう間もずっとそのことばかり考えていた。 今日もあの夜と同じく嵐が近づいているせいだろうか。 城内に入ってしまえば接触は避けられない。 ただ、少しでもそれを先延ばしにしたかった。 しかし── 「ミス・ミツキ」 出来れば会いたくなかった相手であるスネイプは、城の入口でマユを待ち構えていた。 「ついて来たまえ」 「…はい」 仕方なくスネイプの後ろについていく。 他の生徒達の視線が痛い。 新学期早々何をやらかしたんだ?と言いたげな顔で皆マユを見ている。 スネイプはそんな周りの反応など一切気にせずに城内に入ると、玄関ホールを横切って地下への階段を降りて行った。 スリザリン寮の談話室への入口ではなく、自らの私室へ向かって歩いていくスネイプに、マユは嫌な予感がしていたが、引き返すことも出来ない。 「入りたまえ」 私室のドアを開けると、スネイプはマユを先に中へと通した。 背後でドアが閉まり、カチリと鍵が掛けられた音が小さく響く。 それを耳にしたマユは顔色を失くしていた。 「スネイプせんせ、」 壁に押し付けられるようにして唇を奪われる。 「んんぅっ…!」 貪るように激しく口付けられて、マユは弱々しくスネイプの胸を手で押し返して抵抗した。 だが、マユに覆い被さっているスネイプの身体はびくともしない。 「何故、返事をくれなかった」 マユから唇を離したスネイプが詰問する。 あの出来事のあと、スネイプからは何度も手紙が届いていた。 しかし、中身を見るのが怖くて一度も封を切らず、返事もしなかったのだ。 「まさか、無かったことにしようとしたのか?」 恋人の不義理をなじるような声音だった。 「だって、あんな…」 「我輩は本気だと言ったはずだ」 そう言われてしまうと、二の句がつげない。 本気なのはわかっているからだ。 あれは、嵐の夜の出来事だった。 半ば強引に身体を暴かれたのは。 マユはただ純粋に学校の授業の延長のような感覚でスネイプの自宅を訪れたのだが、そこで……。 激しく窓を叩く雨粒。 時折、闇を照らし出す稲光。 古びた書物の匂いのする部屋で、必死の抵抗もむなしく、なすがままに初めてを奪われてしまった。 「愛している」 あの夜と同じ、懇願するような口調でスネイプはマユに愛を告げた。 「君を、愛している……マユ」 「スネイプ先生…」 「君は我輩のものだ。どうか、そうだと言ってくれ」 常にない彼の様子に困惑して身を縮こませるマユをかき抱いて、スネイプが耳元で吐息混じりに囁く。 聞こえないはずの雷鳴が耳の奥で響いた気がした。 |