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今日のお昼は大好きなローストビーフだった。
ローストポテトとヨークシャープディングが添えてあり、グレービーソースがかかっているそれは、ホグワーツの食事の中でも人気の高いメニューの一つだ。

今日は何だか良い日になりそうな気がする。

「ねえ聞いた?午後はダンスのレッスンをやるそうよ」

「本当?」

「ええ、スプラウト先生が教えて下さるって」

今年のホグワーツはいつもと違う。
三大魔法学校対抗試合が行われているからだ。
私の幼なじみのセドリックも選手として参加していた。

実はセドリックは私の初恋の相手なのだが、二人のいまの関係が壊れてしまうのが怖くて私はこの想いをひた隠しにしている。

もしかしたら、そのセドリックとダンスが踊れるかもしれない。

私は期待で胸がはちきれそうになりながらダンスのレッスンが行われる教室に向かった。


「今日、ここで何をするかは各自聞き及んでいると思うが、我輩の指導の元、二人一組でダンスのレッスンをしてもらう」

滔々と説明するスネイプ先生の声を聞きながら、密かに溜め息をつく。
周りを見回さなくてもガッカリしているのが私だけではないことがわかった。

スネイプ先生のお話によると、急な腰痛で動けないスプラウト先生の代わりに、ということらしい。

後でお見舞いに行こう、と友達と目配せして頷きあった。

同じように男子と何か示しあわせていたセドリックと目が合う。

「それでは、ペアを作りたまえ」

「セド、」

「ミス・ミツキ。君には我輩のパートナーとなって、皆に見本を見せてもらう」

「ええっ」

「我輩がお相手ではご不満ですかな?」

スネイプ先生は至極優しげな声音で問いかけてきたが、私は震えあがって首を真横に振った。

「手を」

スネイプ先生が差し出した手に、おずおずと自分の手を乗せる。
スネイプ先生が私を引き寄せて腰を抱いたのと同時に蓄音機から音楽が流れはじめた。

「足を踏まないよう気をつけたまえ。一度目は許すが、二度目以降は減点だ」

「は、はいっ」

音楽に乗せてスネイプ先生がステップを踏む。
私は先生の足を踏まないように全神経を集中させながら先生の動きに合わせた。

まるで恋人同士がする抱擁のようにぴったりと身を寄せあい、互いのステップに合わせてくるり、くるり、と円を描く。

そうして流れていく景色の中にセドリックの姿を見つけた私は、思わず助けを求めるように彼に視線を送った。

「どこを見ている」

「ヒッ」

「余所見をするな。ダンスの最中はパートナーだけを見ているものだ」

グッと腰を抱き寄せられて身体が密着する。
私は声にならない悲鳴をあげたが、スネイプ先生は全く気にした様子もなく踊り続けていた。

「我輩を見ろ」

強い眼差しに射すくめられる。
まるで心の奥底まで暴かれてしまうような目に、背筋を冷たい汗が伝うのを感じた。
ぐりぐりと目で心を抉られているような気分だ。

「…そうか、君は」

スネイプ先生は何かを言いかけたが、ダンスの終わりが近づいていたので、最後のステップのあとで向き合ってお礼の仕草をしたため、それ以上何も言われないまま踊り終えた。

「悪いことは言わん。セドリック・ディゴリーのことは諦めたまえ」

「えっ」

スネイプ先生は素早く囁いたあと、すぐに私から離れてしまった。

「結構。本番で諸君がみっともないミスを犯さないよう願っている」

スネイプ先生は皮肉げに唇を歪めて生徒達を見渡すと、さっとマントを翻した。

「以上だ」

そうしてさっさと教室を出て行ってしまった。

「災難だったわね。よりによって、スネイプ先生と踊らされるなんて」

友達がすぐに駆け寄ってきて肩を叩いて慰められる。

「スプラウト先生、大丈夫かしら」

「そうね、後でお見舞いに行きましょう」

友達と一緒に教室から出て行きながら、私はさっきスネイプ先生に言われた言葉を思い出していた。

先生はどうしてあんなことを言ったのだろう。

考えても答えは出なかった。

その時は、まだ。


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