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「ダンブルドア先生、ひどいよね。あんなギリギリになって得点入れて逆転させるなんて。ぬか喜びさせられたスリザリンの子もスネイプ先生もかわいそう」

秋も深まり、朝晩とても冷え込むようになってきた。
金曜日、テレビで賢者の石が放送されたので、布団と毛布にくるまってぬくぬくしながら観たのだが、やはりというか、いつも通りスネイプ先生を目で追ってしまう自分に気付き、自嘲する。

ある日突然あの世界に飛ばされ、ホグワーツの事務員として五年と少しあちらで過ごした。
宿願だったスネイプ先生を助けるという目的を果たしたら、役目は終わったとばかりに元の世界に戻されたのだから、神様は残酷だ。

ただひとつ有り難かったのは、こちらの世界では全く時間が経っていなかったことである。
元の世界に戻った翌日から、私は元通りの生活を送ることになった。

こちらに帰って来て以来ずっと、最終巻を読み返せないでいる。
彼の結末は何も変わっていない、お前のやったことは無意味だと突き付けられるのが怖くて。

私のしたことは間違っていたのだろうか。

もしそうだとしても微塵も後悔していない。
同じ状況に立たされたら何度でも同じ行動をとったはずだと確信を持って断言出来る。

例え、神様の意思に背くことになっても。

世界の全てを敵に回したって構わない。
何度だって彼を助けてみせる。


そんなことを考えながら眠ったからだろうか。
その夜はスネイプ先生の夢を見た。


「──マユ……」

スネイプ先生が私を呼んでいる。

向こうの世界にいる間、幾度となく名前を呼ばれたけれど、こんなに甘く優しい声音で呼ばれたことはない。

やめて。泣いちゃう。

もっと深い眠りに逃げ込もうとして寝返りをうち、暖かい毛布の中に潜り込んだ。
すると、背後から大きな身体に抱きすくめられてギョッとした。
布団の中に誰かいる!

パニックに陥りかけた私を制したのは、耳元に寄せられた唇から紡ぎ出された艶のあるバリトンボイスだった。

「逃げないでくれ。頼む」

「えっ……えっ?」

「夜毎日毎に願っていた甲斐があった。やっと戻って来てくれたのだな……我輩の元へ」

「えっ、スネイプ先生?うそ、だって」

「もう二度と離しはしない。愛している」

確かめようとして振り向くと、情熱的な愛の告白とともに、これ以上はないほどしっかりとかき抱かれる。
ぎゅうぎゅうと苦しいくらいに抱き締められ、スネイプ先生の匂いと体温に包み込まれた私は完全に混乱しきっていた。

「これ、夢ですよね?私、昨日映画見て寝て、スネイプ先生の夢を見ていたから……」

「これが夢だとしたら、残酷な夢だ。もう二度と逢えないはずの愛しい君が腕の中にいる。夢ならば、どうか覚めないでくれ」

寝起きであるのか、寝乱れた黒髪だとか、少し掠れたバリトンが凄絶に色っぽい。

えっ、えっ、本物?

寝ている間に、よりによってスネイプ先生のベッドの中にトリップしたということ?

なんてことだ!

「先生、先生!離して下さい!私寝起きで素っぴんだからっ」

「ああ、君はあたたかいな。愛する人の温もりを感じられるというのが、これほどまでに幸せなことだったとは」

「私も幸せですけど、でもちょっと待って!」

「もう充分過ぎるほど待った。この上、まだお預けをするつもりかね?」

「そ、そ、そういうことじゃ……」

よりによって、こんな状態で再会するなんて。

神様は気まぐれで、意地悪だ。

けれども、私の髪にかかる湿った吐息だとか、いまにも泣き出しそうで、それでいて幸せそうなスネイプ先生の微笑みを目にしてしまうと、やはり神様に感謝せずにはいられなかった。

土曜日の朝に起こった、ささやかな奇跡の物語である。


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