今年のクィディッチ・ワールドカップの決勝の夜は散々だったらしい。 らしい、というのは私は観に行かなかったので伝聞でしかないからだ。 決勝そのものは何事もなく終了した。 問題はその後だ。 なんでもその夜、突然現れた死喰人が観戦者達のテント村を焼き討ちした上に、闇の印を打ち上げたのだそうだ。 実際にその場にいた人々はさぞ恐ろしかったに違いない。 魔法省は後始末やら対策やらでてんてこまいだとか。 何かが起こりそうな予感とでもいうのだろうか。 今年は大変な事件が起こりそうな気がする。 折しも、今年の9月からホグワーツでは、ホグワーツ魔法魔術学校、ダームストラング専門学校、ボーバトン魔法アカデミーの3校による三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)が約100年ぶりに行われることになっていた。 外部の人間が出入りするこの機会を逃すはずがない。 名前を呼んではいけない例のあの人がハリー・ポッターを狙っているのなら、何らかの手を打ってくるだろう。 可哀想なハリー。 何事もなければいいのだけれど。 私はというと、乙女の悩みとでもいうものに悩まされていた。 スネイプ教授から直接梟便が届いたのである。 その手紙には、三大魔法学校対抗試合が行われること、そして、それに伴い、クリスマスにダンスパーティーが開かれることが書かれていた。 “君が我輩のパートナーとして踊れるように”、忘れずにドレスローブを荷物に入れて来るように、と念を押されて。 「どうしよう…」 シャンパンゴールドのドレスローブをトランクにしまいながら、私はまだ悩んでいた。 この色にしたのは、散々迷った末に、恐らく当日も黒尽くめであろう教授の隣に並んだら映えるのではないかと思ったからだ。 「どんな顔をして会えばいいのかわからないよ…」 今頭を悩ませている問題はそれだ。 スネイプ教授と会って平常心でいられる自信がない。 はしゃぐつもりはないけれど、あのスネイプ教授が誘ってくれたという事実が嬉しくて仕方がなかった。 友達に相談すれば、キスして押し倒してしまえばいいじゃないと言われそうだし、こんなこと誰にも相談出来ない。 「そうだ、アクセサリー!」 私は立ち上がった。 ドレスローブにはアクセサリーが必要だ。 ネックレスは去年お祖母さまから譲り受けたシルバーにエメラルドがついたスリザリンカラーのものがあるので、それが良いだろう。 となると、イヤリングもあったほうがいい。 手持ちのものはデザインがちょっと子供っぽくなってしまっているから、新しく買わなければ。 やっぱりエメラルドがいいかな。 それから、スキンパウダー。 ドレスが肌に張り付かないように。静電気対策というのもある。 メイクはどうしよう。 やっぱり学生らしくナチュラルなのがいいかな。 私は引き出しから出して来たパウダーとメイク道具をトランクにしまった。 よし、買い物に行こう。 ちょうどその時、窓ガラスをコツコツと嘴でつついている梟に気がついた。 私が気がついたのを見てとると、梟は片足を上げてみせた。 小さな箱を持っている。 窓を開けてやると、梟はその箱を私の前にぽとりと置いて、再び空へと舞い上がっていった。 なんだろう? 包み紙を剥がして箱を開けると、中にはまた小さな箱が。 宝石の入ったビロウドのケースだ。 それを開くと、シルバーに小さなキラキラ光るダイヤがついた素敵なシャンデリア型のイヤリングが入っていた。 それと、メモが。 “ダンスパーティーではこれを着けたまえ” 短いメッセージに、S.Sの署名。 私はイヤリングを胸に抱いて、ベッドに仰向けに倒れこんだ。 「せんせい、愛してる…!」 どんな顔でこれを買ったのか想像したらおかしくて、ベッドの上でじたばたしてしまった。 愛しています、私の先生。 |