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近くに屋台があるのだろう。
夜風に紛れてソース焼きそばの香ばしい匂いが漂ってくる。
道往く人々は、やはり浴衣を着ている人が多い。

少し歩くと、思った通り、焼きそばの屋台が見えてきた。
それだけではない。何十という屋台が道の両脇に軒を連ねている。
いかにもお祭りといった感じで何だかワクワクしてきた。


「あっ、あの金魚模様の浴衣の子、可愛い」

「君もその浴衣、よく似合ってて可愛いよ、なまえ」

「手前……よくもそんな息をするように口説けるな。この女たらしが」

「おやぁ?中也は浴衣姿のなまえを見ても何とも思わないのかい?」

「ばっ、そんなことは言ってねえだろ!」

「こういうことは口に出さないと駄目なんだよ、中也。ねえ、なまえ」

「すっげえ可愛い。これでいいだろ」

頬を赤く染め、そっぽを向いた中也くんのほうがずっと可愛い。

「ありがとう、中也くん」

「なまえ、私には?」

「ありがとう、太宰くん」

「どういたしまして。はぐれるといけないから手を繋ごう」

「あ、うん」

太宰くんの手は大きくてごつごつしていた。包帯が巻かれているせいだろうか。
男の人の手という感じで、少し照れくさい。
太宰くんが優しげな眼差しを注いでくるのも。

「ほら、行くぞ」

「え、あっ」

反対側の手を中也くんに握られ、引っ張られる。
ととっと、たたらを踏んでバランスを崩した身体を中也くんがしっかりと支えてくれた。

「大丈夫か?」

「う、うん」

「やってくれるね、中也」

太宰くんが不敵な笑みを浮かべて中也くんを見据える。

「首領に頼まれたからな。なまえの面倒は俺が見る」

「私も森さんに頼まれているからね。なまえは私がエスコートするよ」

正確には森さんは、二人に「なまえちゃんを頼んだよ。喧嘩せず仲良くしなさい」と言っていたのだけれど。
喧嘩せず仲良くのあたりは二人とも忘れてしまったのか。意図的に聞かなかったことにしたのか。
いずれにしても、この状況はよろしくない。

「二人とも、屋台見ようよ、屋台」

「なまえは何が食べたい?」

「好きなもん買ってやるぜ」

「じゃあ、チョコバナナが食べたいな」

「任せなよ。中也、早く買ってきて」

「俺に指図するんじゃねえ!」

そう言いながらもちゃんと買いに行って、しかも三人分買ってきてくれる中也くんはなんでマフィアなんかやっているのかわからないほど物凄くいい人だ。

「中也、次は焼きそばね」

「だから、なんで手前が仕切ってんだよ!」

「まあまあ……あ、射的があるよ」

「へえ、面白そうだね」

「手前に出来るのかよ」

「中也よりは腕がいいと思うよ」

「言ったな?勝負だ、太宰!」

「受けてたとう」

あああ……結局こうなってしまった。
すみません、森さん。
せっかく二人を護衛につけてくれたのに、二人とも私そっちのけで縁日を楽しんでいます。

……まあ、いいか。

子供のようにはしゃぐ二人は見ていてとても微笑ましい。


「なまえ、お待たせ。戦利品だよ」

「わ、すごい!」

「両手で持ちきれねえから店主がビニール袋くれたぜ」

「おじさん、涙目になってるじゃん……」


双黒、恐るべし。


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