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「遅かったね」

夕食を食べて帰って来たら、太宰くんがバスローブ姿で寛いでいた。
どうやら私の部屋のお風呂を使ったらしく、同じ石鹸の香りを漂わせている。
ソファにしどけなく寝そべっている姿は随分とまあ色っぽい。
はっきり言ってえっちだ。

「ねえ、包帯巻き直してよ」

「それは構わないけど、包帯は?」

「汗かいて汚れたから捨てた。新しいの巻いてくれるかい」

「うん、了解」

部屋に備え付けられていた救急箱からサージカルテープと新しい包帯を取り出して、上半身だけバスローブを脱いだ太宰くんの身体に巻いていく。

細いけれどちゃんと必要な筋肉がついた身体には、青黒く変色した痣や怪我の痕が生々しく残っていた。
それらを覆い隠すように白い包帯を巻いていく作業は、何となく倒錯的なものを感じなくもない。

「痛くない?」

「うん」

「片目隠しちゃうのもったいないね。綺麗なのに」

「そんなこと初めて言われたよ」

包帯で隠されてしまった右目を上から手で押さえて太宰くんが呟く。

「そんな風に私にずけずけものを言えるのはなまえだけだよ」

「そうなの?太宰くんモテそうなのに、女の子から言われない?」

「どうせ皆一夜限りの相手だし、そもそも私にそんな口をきく勇気のある女はいなかったからね」

「うわあ…」

「えー、そこで引いちゃう?酷いなあ、なまえは」

たぶんだけど、太宰くんが今まで相手の女の子にしてきたことのほうが遥かに酷い気がする。

「じゃあ、先にベッドで待ってるから、お風呂入って来なよ。なるべく早くね」

「ええ…」

何故かナチュラルに一緒に寝ることになっていて困惑したが、太宰くんなだけに何を言っても無駄な気がした。

「今度は一緒に入ろうね」

「太宰くん、それは完全にアウトだからね」

お風呂に入って上がって来たら、太宰くんはやはり当然のようにベッドで寝ていて、どうしようか迷っていた私に向かって布団を捲って「早く入りなよ」と命じたのだった。

結局そのまま一緒に寝てしまったのだけれど、緊張して眠れないどころか、太宰くんの体温が心地よくて朝までぐっすり眠ってしまったのはいま思い返しても悔しくて堪らない。

ここに来てから太宰くんにはやられっぱなしだ。

いつか仕返しをしたいと思っているけれど、無理だろうなあ。

年下なのに太宰くんのほうが二枚も三枚も上手だ。

マフィアの幹部さまこわい。


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