やはりなまえは気付いていなかった。 賑やかに騒ぎたてる女性達の後ろで、苦々しい顔つきでこちらを見ている男の存在に。 田中という名前で、なまえにとっては後輩社員にあたるその男は、以前からさりげなく(本人はそのつもりで)なまえにアプローチをしかけてきていた相手だ。 スマホのグループLINEでその男とのやり取りを見て、直ぐに彼には二人の関係性がわかった。 パソコンでなまえの職場について調べ、会社のパソコンをハッキングして男の経歴や職務などを調べ上げたが、とるに足らない相手だと結論付けた。 ただ、他にもなまえに目をつけている男がいないとも限らない。 牽制は必要だ。 効果は想像以上だった。 「もう、来るなら来るって先に言って下さいよ」 びっくりしたじゃないですかと言うなまえは、何も気付いていない。 彼が本当はどんな目的があってわざわざ足を運んだのか。 彼女はきっと知らないまま終わるだろう。 「すみません。電話すれば良かったですね」 「そうですよ。次からはちゃんと連絡して下さいね」 「ええ、気をつけます」 だが、それでいい。 獲物にはそうと気付かせないまま外堀を埋めていくのは定石だ。 「なまえさん、お腹がすきました」 「はいはい。帰ったらすぐ作りますね」 嗚呼、早く貴女を食べてしまいたい。 |