いまは月曜日の朝……のはずだ。たぶん。 というのも、目が覚めたら見覚えのない部屋のベッドの上にいて、室内は夜のように暗かったからである。 窓のある部分だけが仄かに明るい。 起き上がろうとして、長い腕が腰に絡められていることに気付いた。 背中に感じるのは、紛れもなく自分以外の人間の人の体温。 ギクリと身を硬くすると、その人物は小さく笑って腕に力をこめた。 まるで、逃がさないとでも言うように。 「おはようございます、なまえさん」 「ヒッ!」 声だけで誰なのか解ってしまった。 フョードル・ドストエフスキー。 私がこの世で一番苦手としている人物だ。 「は、離して下さいっ」 「何故です?昨日あれほど熱い夜を過ごした仲だというのに」 フョードルさんが私の首筋に甘えるように高い鼻先をすり寄せてくる。 ゾクゾクゾクッと背筋に寒気が走った。 昨日、昨日は──ダメだ。思い出せない。 気が付きたくなかったけれど、私もフョードルさんも服を着ていない。 でも、そんなまさか。 よりによってという思いだったが、記憶がない以上、絶対にそんなことはなかったと言いきれないのがつらいところだ。 私は泣きそうになりながら、何とかフョードルさんの腕を振り払ってベッドから降りた。 椅子に掛けられていたどちらのものかわからないシャツを手にし、急いで身に付ける。 大きい。 どうやらフョードルさんのシャツだったようだ。 ドアまで走っていき、ノブを回すが、開かない。 「開けて!開けて下さい!」 もちろんそんなことで開くはずがなかった。 フョードルさんはそんな私を、頬杖をついて薄笑いを浮かべながら眺めていた。 それでは窓はどうかと駆け寄る。 「誰か……」 私の声はそこで凍りついた。 ──違う。これ窓じゃない。スマートディスプレイだ。 窓枠の形をしたスマートディスプレイに風景映像が映っているんだ。 急速に身体から力が抜けていき、へなへなとその場に座り込む。 「気が済みましたか?」 いっそ慈悲深く感じられるほど優しい声でフョードルさんが言った。 いつの間にかガウンを纏っていた彼は、私に手を差しのべて、それに反応がないと見るや、おもむろに私の身体を抱き上げた。 「さて……朝食とシャワー、どちらを先にします?」 ご機嫌な様子でフョードルさんが私にキスをする。 あっ、これはダメだ。帰れそうにない。 ああ……職場に電話しないと。クビになっちゃう。 |