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久しぶりのデートということでせっかく気合いを入れてドレスアップしてきたのに、リストランテに着くなり携帯電話にかかってきた一本の電話で全ては台無しになった。

「ごめんなさい、急な仕事が入って…」

この台詞ももう何度目だろうか。
相手からこれもまた聞き飽きた言葉が返ってくる前に既に結果は分かっていた。

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「ファミリーの人達は一体どうやってデートしてるの?」

使用済みのゴム手袋をゴミ箱に放り投げ、手を流水で念入りに洗いながらなまえはぼやいた。
冷たい水に身も心も凍えてしまいそうだ。

「聞いたわ。呼び戻されたせいでデートをキャンセルするはめになったんですってね。お気の毒様」

壁に背をもたせかけて腕を組んでいるルッスーリアが、ホホホと上品に笑う。
黒い鏡のように磨かれたサングラスに隠されて見えないが、その瞳は間違いなくなまえに向けられていた。
今夜の標的は彼のお眼鏡にはかなわなかったようだ。残念ながら。

「同情してくれるなら誰か紹介して」

「私のカレでいいならね」

「冷たい彼氏じゃなくて、活きが良くてピチピチしてる男のことよ」

ルッスーリアの私室の壁の奥、秘密の隠し部屋にコレクションされているモノを思い浮かべてなまえは口をヘの字に曲げた。
なまえが死体を扱うのはあくまでも仕事であって、そっちの趣味はない。

「あら、欲求不満なの?」

「そういうわけじゃないけど……今日は何となく熱い腕で抱きしめられたい気分だったの」

「そう…そうね、そんな気分の時もあるわよね」

ルッスーリアの声が、面白がっているそれから宥めるような調子に変わった。
彼のこういう所が、「姐さん」と呼ばれて他の隊員達から慕われる要因となっているのだろう。
だからと言って、彼らは別にルッスーリアの万力のような腕に抱きしめられたいと願っているわけではない。
もしも自分が気にいられたと知ったら、全力で逃げ出すはずだ。

しかし、そのルッスーリアが近づいてきて、緩やかに抱きしめられても、なまえは逃げ出しはしなかった。

「ルッス?」

「抱きしめられたかったんでしょう?今夜は私が抱いて寝てあげる」

「それは…そういう意味で?」

ルッスーリアは色っぽく含み笑ってみせた。

「たまにはいいんじゃない?こんな綺麗な月夜なんですもの」



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