調理師養成専門学校のオープンキャンパスに行った帰り道。 なまえは付き添いで来てくれていた白蘭に誘われて、オープンカフェでお茶をしていくことになった。 「カフェでたい焼きって珍しいですね」 白蘭が買ってきたのは、たい焼き。 見慣れた魚の形をしているが、色が妙に白い。 「ここの新メニューでね。実はネットで見て狙ってたんだ。なまえチャンも一口食べてみる?」 「いいんですか?」 「うん、遠慮なくガブッといっていいよ」 「はい、じゃあ頂きます」 まだ手付かずのままのそれを差し出されて、一口かぶりつく。 「ん…あれ?」 予想していたのと違う味に一瞬戸惑う。 魚の腹の中には、餡子の代わりに生クリームとフルーツが詰まっていたのだ。 「アハハ、びっくりした?面白いよね、まさかたい焼きに生クリームが入ってるなんて思わないじゃん。予想通りの反応で嬉しいよ」 好きな言葉は“世界平和”だという白蘭は、テーブルに頬杖をついてにこにこ笑いながら言った。 「で、どうだった?今日見てきた学校」 「そうですね…良い学校だと思います」 新築ではないので、お世辞にも綺麗でお洒落な施設とは言えないまでも、清潔で気持ちよく勉強が出来るだろうなと思える環境だった。 プロの手際の良さを目の当たりにして、ここでその技術を学びたいとも思えた。 たぶんその気持ちが一番大切なのだと思う。 「うん、僕もあそこは合格点だと思うよ。お菓子も美味しかったし、何より見学してる時なまえチャン凄くいい顔してた」 そういうのっていいよね、と白蘭は自分もたい焼きにかぶりついた。 「ワクワク出来るって言うかさ、情熱を向けられる対象があるのってカッコイイじゃない」 魚の腹からはみ出した中身──というと、いささかグロいが、つまり甘ったるい生クリームだ。 指についたそれを白蘭が赤い舌を出してペロッと舐める。 えっちな仕草だなあとなまえはぼんやり思った。 何が悪いんだろう。 やっぱり目つきか。 いや、たぶん全部だ。 「お口にもついてますよ」 「ん、ありがと」 なまえは手を伸ばしてハンカチで彼の口元を拭いてやった。 これではどちらが年上か分からない。 「それじゃあ、今のところ確定してるのは、調理師免許の取得っていうことでいいのかな?」 「はい」 なまえはこっくり頷いた。 「それなら何も問題ないよね」 「?」 「結婚しよう、なまえチャン」 「え……えええっ!?」 「お金の事なら心配ないよ。僕はまだ大学生だけど、学生実業家として起業して一応社長やってるし、特許も幾つか持ってるからそっちの収入もあるしね。なまえチャン一人養うくらいなんにも問題ない」 「そ、そうじゃなくて!急になんでそんな話になるんですか!」 「だって、あの学校って2年コースでしょ。2年って結構長いよ。その2年の間に誰か好きな人が出来ちゃうかもしれないじゃん。だから予約」 ただでさえライバル多いんだから、と相変わらずにこにこ笑いながら白蘭は言う。 「そうと決まれば早速お母さんとお父さんに挨拶しなくちゃね。──っと、やっぱりリボーン君にも一応挨拶したほうがいいのかな?」 「だからまだ、」 「ほら、早く早く!」 立ち上がった白蘭がなまえの手を握って走り出す。 手と手を繋いで、新しい未来を作るための第一歩を踏み出した日。 |