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心臓が口から飛び出してきそうだ。
うまく息が出来なくて苦しい。
見間違うはずがなかった。
間違いない。彼は


「大丈夫かい?」


なまえに向かって手を差しのべている男。
──白蘭だ。

「どうしたの?どこか痛い?」

曲がり角で出会い頭にぶつかり、尻餅をついた体勢のまま呆然と白蘭を見上げていたなまえは、心配そうに尋ねてくる声を耳にして、はっと我にかえった。
内心の動揺を押し隠しながら彼の手を借りて立ち上がる。

「大丈夫です、ごめんなさい」

当たり前だが未来で見た彼よりも若い。
笑顔の仮面は相変わらず。しかし、未来で対峙した時のあの異様な雰囲気は感じられなかった。

「──あれ?」

白蘭が首を傾げる。

「前に何処かで会ったことあったかな?」

「い、いいえ…」

「だよねー。こんなカワイイ子、一度会ったら忘れるはずないからね」

台詞だけならナンパの常套句だが、なまえは別の意味でドキドキしていた。
これはちょっとまずいんじゃないだろうか。

やっと未来を変えられたと思ったのに。
もしまた白蘭が能力に目覚め、野望を抱くようになったらと思うと、ほんのささいな行動にさえも敏感になってしまう。

「僕は白蘭。君の名前は?」

「沢田…なまえです」

「なまえチャンか。名前も可愛いなあ」

白蘭はにこにこ笑っている。
一見すると邪気のかけらもない笑顔だが、本心はわからない。
この男が狡猾で悪辣な本性を軽薄でゆるそうな青年の仮面の下に隠していることはよく知っていた。

「会ったばかりの女の子にこんなことを言うのもどうかと思うけど……」

まだなまえの手を握ったままだった白蘭が、その手にほんの僅かに力をこめる。

「一目惚れした──って言ったら信じる?」

なまえは驚いてぶんぶん首を横に振った。

「アハハ、やっぱりそう簡単にはいかないか」

「その通りだぞ」

白蘭の笑い声に続いた、別の人物の声。
なまえはその声が聞こえてきた方向を見て安堵した。

「ちゃおっス」

「君は?」

「俺はなまえの保護者だ」

現れた赤ん坊は、白蘭に向かってニッと笑ってみせた。

「なまえは将来実力能力ともに優れた色男ばかりのハーレムを作ってマフィア世界に君臨する女だぞ」

「なっ──ちょ、なに言ってるのリボーン!」

「アハハハハ、それはすごい!」

白蘭が朗らかに笑う。
白蘭はなまえにずいと顔を寄せたかと思うと、甘い微笑を浮かべ、艶っぽい声で言った。

「ねえ、なまえチャン。僕も君のハーレムに入れてよ」

「ハ、ハーレムなんて作りませんってば!」

「審査を受けてみるか?」

リボーンが言った。
慌てふためくなまえのことは完全スルーだ。

「今日一日なまえを貸してやる。恋人役を務めて合格したらハーレムに加えてやってもいいぞ」

「へえ、面白そうだね。そういうことなら喜んで」

「よし。タイムリミットは17時だからな」

「それまではなまえチャンは僕のカノジョってことか。うん、楽しそうだ。じゃあ、行こうか」

「行こうかって──ええっ本当に!?」

白蘭に手を引かれて連行されながら自称保護者を振り返る。リボーンは何を考えているのだろう?



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