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繰り返し見る悪夢は、いつも背中の痛みから始まる。

張り裂けそうな激痛に悶え苦しむ内に本当に背の肉が裂け、皮膚が裂け、血しぶきとともに炎が吹き出すのだ。

羽にも似た形に迸る炎は、そのまま彼の命の炎だった。
あるいは他者から奪った命の炎だった。

りんぷんの如きオレンジ色の火花を辺りに撒き散らしながら、大きく大きく広がっていく炎の羽。
その燃えさかる炎に反比例するように、彼の肉体はみるみる内に衰弱していく。
そうして、命を無理矢理放出される凄まじい激痛と恐怖に絶叫しながら彼は悪夢から目覚めるのだ。



ただ、今日は違った。
干からびた彼の手を握る者がいた。

「白蘭さん」

名前を呼ぶ声に導かれるように、悪夢が遠ざかっていくのが感じられる。
苦痛も和らいでいた。

「白蘭さん」

もう一度、声が彼を呼んだ。

ひどく重たい目蓋を持ち上げた白蘭は、視界に映った少女の姿に、一瞬まだ自分は夢を見ているのかと考えた。
未だに身体は重苦しい感じが残っていたが、あの悪夢に比べればこっちの夢は天国に思える。

「なまえチャン…?」

言った途端、喉から咳がこみあげてきて白蘭は咳き込んだ。
小さな手が背中をさすってくれる。
どうやらこれは夢ではなさそうだ。

「どうしてここに?」

「白蘭さんが電話で呼んだんですよ」

「…僕が?」

「そうです。『助けて』、って。何かあったのかとびっくりしちゃいました。具合が悪そうなのは声で分かったし、咳をしてたからそうかなと思ったんですけど、やっぱり風邪ひいてたんですね」

意識が朦朧としていたから電話した事を覚えてないのかなあ、となまえは優しく笑った。

「お薬飲みましたか?」

白蘭は気怠げに首を横に振った。
風邪のせいで頭がぼんやりしているらしい。
昨夜からの記憶が曖昧だった。

「一応、薬局に寄って風邪薬買ってきました。お腹に何か入れてから飲んだほうがいいですけど…食べられそうですか?」

「ん、…どうかな…」

食欲はまったくない。
昨日の昼は普通に食べた気がするから、自分でも驚くほど急激に悪化してしまったようだ。

「桃の缶詰とか、どうですか?」

「ああ…うん、それなら平気かもしれない」

「じゃあ今用意しますね」



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