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どう見ても赤ん坊だけど、どう見ても赤ん坊には見えない。
矛盾しているが、それが初めてリボーンを見た時のなまえの正直な感想だった。

リボーンは弟の綱吉の家庭教師である。
しかし、なまえにとっては先生や師匠というよりも保護者に近い感覚の存在だった。
──そう、“だった”のだ。

なまえはベッドの上に寝転んだまま、テーブルに向かう男の背中を眺めていた。

素肌に軽く白いシャツを羽織ったリボーンは、袖を軽く腕捲りしてエスプレッソを淹れている。
こんな時までエスプレッソなのだから、その拘りは相当なものだ。
淫靡な空気が立ち込めていた室内にたちまち香ばしい独特の芳香が漂い始める。

「ほら、溢すなよ」

「うん。有難う」

戻って来たリボーンの手には二つカップがあった。
片方は自分のエスプレッソ。
もう片方はなまえのための蜂蜜を入れたホットミルクだ。

身を起こしてマグカップを受け取ると、リボーンはベッドの縁に腰掛けた。
普段は身長差があるせいで見上げる形となる美貌が、今は座っているせいで少し近い。

彼のチャームポイントでもあるもみ上げは今はくるんとしていない。
きちんと撫でつけてある。
以前、ほんの遊び心でくるんとしている状態に戻そうと指でいじったら、それはもう筆舌に尽くし難い酷い目に遭わされた。
言うまでもなく性的な意味で。

「ん?」

携帯が振動する小さな音が聞こえてきたので、なまえはカップを置いて発生源を探した。
出所はなまえの上着のポケットだった。
マナーモードにしておいた携帯がぶるぶる震えて着信を知らせている。

「ツナからだ」

携帯を開いて呟くと、横で何故かリボーンが舌打ちした。

「もしもし?」

『あー良かった…そこにリボーンいるだろ』

「うん。あれ?リボーンの携帯は?」

『リボーンの奴、自分の携帯の電源切ってやがるんだよ』

「恋人をベッドに誘う時の当然のマナーだからな」

リボーンはしれっとして言ってのけたが、怪しいものだとなまえは思った。
ただ単に面倒だったのだろう。
ボンゴレのボスになったツナが『先生』に連絡を取ろうとするのは厄介事が起こった時と決まっていたからだ。

「はい」とリボーンに携帯を差し出す。
ヒットマンは「俺は休暇中だぞ」と嫌そうな顔をしたが、渋々受け取った。

「なんだ、ダメツナ」

携帯を渡してしまったのでツナの声はなまえには聞こえないが、たぶん文句を言っているんだろう。
ニヤニヤしているリボーンの表情で解る。
この家庭教師の先生は骨の髄までドSなのだ。

「分かった」

ツナをいたぶるのに飽きたのか、用件が緊急のものだったのか、会話は思っていたよりも短時間で終わった。

「今から行くの?」

「ああ。仕方ねーからな」

通話を終えたリボーンから携帯を受け取る。

リボーンがシャツのボタンを手早くとめて、愛銃を収めたホルダーを身につける間に、なまえは彼の上着を椅子から取り、ぱたぱたと手で軽くはたいて彼の広い背中に着せかけた。

「行ってらっしゃい」

「いい子にして待ってろよ、仔猫ちゃん。帰ったら初詣に連れて行ってやる」

なまえの唇にちゅっとキスを一つ落として、リボーンは愛用している中折れ帽を被り、部屋を出て行った。

新年早々物騒だが、これが彼らが生きる世界なのだ。
無事を祈って待つしかない。

なまえはリボーンのカップを手に取り、少しだけ残っていたエスプレッソを飲んでみた。
さっきの彼のキスは甘く感じたが、やはりそれはとても苦かった。



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