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「お誕生日おめでとう、リボーン!」

「おめでとうございますリボーンさん!」

祝いの言葉にプレゼントの山。
沢田家の女性陣による心尽くしの御馳走とケーキを堪能した後は、お約束の馬鹿騒ぎ。

相棒のカメレオンがうとうとし始めたのを見たリボーンは、レオンを静かな場所に運ぶべく、もはや主旨を忘れて賑やかしくパーティーを楽しんでいる教え子達の輪からそっと離れて、独り二階へと向かった。

魔法で姿を変えられた王子様は、お姫様のキスでもとの姿に戻り、二人はいつまでも幸せに暮らしたのでした。
──というわけにもいかず、彼は未だに赤ん坊のまま。

それは別に気にならない。
とうの昔に諦めて随分経つ。

お姫様。
そう、お姫様だ。
彼にとってのお姫様のことをリボーンは思う。
愛しい娘。
可愛い、彼のなまえ。

では、彼女にとっての王子とは誰になるのか。
彼女の周りにいる男どもときたら、意地で猛毒を解毒したり、水牢にぶちこまれても他人に憑依して現れたりするような連中ばかりなので、奴らならば呪いをかけられても自力で何とかするだろう。
よくもまあ化物じみた男ばかりに好かれるものだと、リボーンはなまえの奇特な体質を哀れんだ。

「リボーン」

まるで図ったようなタイミングでかけられた声は、ちょうど今考えを巡らせていた相手だった。
心配してリボーンを探しにきたのだろう。
優しい娘だ。

「どうしたの?疲れちゃった?」

「レオンがな」

すやすやと眠るカメレオンを視線で示せば、なまえはくすりと笑った。

「そっか、おねむの時間だったんだね」

ハンモックに移したレオンを見つめるなまえの眼差しは、愛情に満ちた慈母のそれだ。

彼女のその目をリボーンはよく知っている。
愛しく思う男達に向けられるそれを、彼は何度も目撃していたから。

骸に。
あるいは雲雀に。
そしてザンザスに。

男が己の裡(うち)に抱えた信念も覚悟も、弱さも脆さも、頑なな欲求も苛立ちも哀しみも、全部を受け入れ、甘やかし、優しく背を叩く。
それは言うなれば、母が我が子に向けるような愛情だった。

傷つき、渇き、飢えた、闇を歩く男が求めてやまない、究極の愛のかたち。
しかもこの少女はそれを頭で考えるのではなく、本能でやっているのだ。

リボーンは呆れ半分感心半分で目の前の少女の顔を眺めた。
この年齢からそんなものを身に付けているとは、まったくもって末恐ろしい女だ、と。

そして同時に誇らしくもあった。
彼が慈しみ大切に育てているこの花は、やがて大輪の花を咲かせるだろう。

だが、いつか必ず誰かの手に手折られる日がやってくる。

「…お前、俺の五番目の愛人になるか?」

思わずそんな言葉が口をついて出ていた。
途端になまえの顔が曇り、困ったように眉を寄せる。

「なんでそうなるの…変なこと言わないで。ビアンキに毒殺されちゃうよ」

「戦って勝ち取ろうとは思えねえか。愛は惜しみなく奪うものだぞ」

「ええええ……」

「いや、逆か。お前は奪われる側だったな」

怯えた顔をするなまえを見て、リボーンはニッと笑った。

「明日はせいぜい頑張れよ。お前目当てにやってきた奴らが鉢合わせたら、それこそ戦場になるぞ」

「…ちゃんと止めてくれるよね?煽ったりしないよね?」

「さあな。誰が勝者になっても構わねーが、とりあえず、孕んだら一番に俺に教えろ」

「なんでそうなるの!!」

呪いは未だ解けない。しかし、彼は彼なりに今の生活を楽しんでいた。



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