年をとる。成長する。 人間ならば至極当たり前のその現象がどんな感覚であるのか、随分と長い間忘れていた。 アルコバレーノの呪いが解けて再び肉体が成長し始めた今、二度目の人生とともにそれを実感する日々が続いている。 十代の少年に成長したリボーンは、いつもの仕立ての良い三つ揃いのスーツ姿で雲雀恭弥の邸宅を訪れた。 その屋敷は主の意向が十二分に生かされた純和風の佇まいではあったが、リボーンの姿は不思議と周囲の景色に溶け込んで違和感を感じさせない。 それでいて、彼には強烈な存在感があった。 長年の知己らしく少ない言葉で、けれども親しみのこもったやり取りを屋敷の主と交わした後。 「なまえ」 それまでずっと大人しく傍らに座って待っていた幼い少女へと手を差し延べると、彼女はぱっと顔を輝かせてリボーンの腕の中に飛び込んできた。 その小さな身体を抱き上げながら、彼は漆黒の双眸を柔らかく細めた。 「また大きくなったな。もう縫いぐるみは卒業か?」 「ううん!大好き!」 一度なまえを下ろし、横に置いていた包みを手渡す。 「贈り物だ、アモーレ」 出てきたのは、なまえと殆ど変わらない大きさの巨大なクマの縫いぐるみ。 「君がそうやって甘やかすから、この子の部屋は縫いぐるみだらけなんだけど」 なまえの父親であり自分の友人でもある男の不満そうな声は無視した。 一番甘やかしてる奴がどの面さげて言うんだ、と薄く笑んで。 自分と同じ大きさの縫いぐるみを抱きしめるなまえの頬にリボーンは白い指を滑らせる。 そうして、とっておきの甘い声音で優しく囁いた。 「早くいい女になれよ、なまえ。お前を巡って男どもが血で血を洗う争いを繰り広げるくらいにな」 「うん」 「その時には俺も参戦してやる」 「うん」 「ちょっと、どういうことだい赤ん坊」 トゲがあるどころか殺気すら帯びた声が背後からかかった。 ボンゴレ10代目の最強の守護者殿は、どうやらかなりご立腹のようだ。 「言葉通りだぞ。お前の娘は俺がもらってやる。嬉しいだろ」 「冗談じゃない。いくら君でも娘はやらないよ。この子は嫁には出さない。誰にもだ」 これにはさすがのヒットマンも呆れの色を隠しきれずに溜め息をついた。 「まさかお前がこれほど親馬鹿になるとはな……」 「何とでも言えばいいさ。とにかく、結婚は認めない」 ふん、と腕組みをして見下ろす男に、少年はしかし、ニッと不敵に笑ってみせた。 そうして笑むと、陰のある美しい美貌がいっそう艶めいて見える。 「お前だって俺の『娘』を攫っていっただろう。今度は俺の番だぞ」 「あの子は君の娘じゃないじゃないか。とにかく、ダメなものはダメだ。諦めて他をあたるんだね」 「俺は狙った獲物は逃がさねえ。お前こそ諦めろ」 今年で5歳になる彼の大切な姫君は、縫いぐるみを抱きしめたまま、父親とリボーンの口論をきょとんとした顔で見守っていた。 |