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「知ってますか、なまえさんの作るカレーはとても美味しいんです」

「知ってるぞ。ずっと食ってたからな」

「すり下ろした林檎とたっぷりの蜂蜜、そして隠し味にチョコレートが入っているんですよ」

「知ってるぞ。ずっと食ってたからな」

先ほどから奇妙な張り合いを繰り広げている美貌の男が二人。
六道骸とリボーンだ。

両者共に色気だだ漏れ。
いっそ芸術的なまでに美しく整った容姿を持つこの男達に比べて、自分はなんて平凡なんだろうとちょっぴり憂鬱な気持ちになるくらいである。
なまえは微妙な面持ちでスプーンを口に運んだ。

骸の言う通りカレーはかなり甘口に作ってある。
それは、辛い物があまり得意でない骸への配慮であると同時に、長年に渡って年の離れた居候の子供達向けの食事を作ってきたという理由からだった。

にんじんがお花の形だったり、猫だの兎だのの形にくり貫いてあるのもご愛嬌。

城島犬などは、あどけない言動や振る舞いと同じく、味覚もお子様味覚であったためか、なまえの作る料理をたいへん気に入ってくれていた。
クロームや千種も、特別甘口が好みというわけではないけれど、なまえの料理が一番美味しいと言ってくれる。

彼らの誰もそうとは言わないが、骸も彼の仲間達も、なまえの作る料理は「母の味」だと感じていた。
犬が異様になまえに懐いているのも、恐らくは彼女の中に母を見ているからだろう。


「リボーン、今日は泊まって行くの?」

食事が終わり、食後の珈琲を出しながら、なまえはリボーンに確認した。

「ああ。一晩だけ世話になる」

「じゃあ、久しぶりにたくさんお話が出来るね」

「それだけでいいのか、仔猫ちゃん」

しなやかな指で顎をすくい上げられる。
鼓膜を震わせるのは、腰砕けになりそうな甘い低音ボイス。

「もっとイイことをしてやってもいいんだぞ」

「もう!リボーン!」

切れ長の瞳を細め、悪戯っぽい微笑を浮かべて近づいてくる秀麗な顔を、なまえは手のひらでぺちんと止めた。
含み笑いが手の平に伝わってきてくすぐったい。

「身持ちが堅いことだな」

「お陰様で。君の英才教育の賜物ですよ、アルコバレーノ」

澄ました顔で言う骸に、リボーンは軽く肩を竦めてなまえから身を離した。

「なんなら三人でヤってもいいぞ」

「残念ながらそういった趣味はありません」

「嘘つけ。いかにも好きそうじゃねえか」

そのまま非常に危険な会話が始まってしまったので、なまえはこっそり端っこに避難した。



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