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青はなんとなくスクアーロのイメージがある。海洋生物的な意味で。
それに、太陽の陽射しを受けてキラキラと輝く氷はスクアーロの髪を連想させた。

だから、かき氷はブルーハワイを注文した。
今年オープンしたばかりの海の家のカウンターでかき氷を二つ受け取った私は、少し離れたパラソルの下で待っていたスクアーロの元へそれを運んだ。
氷の山の上から練乳がかかっているから、青と白で更に鮫っぽいカラーになっている。

「お待たせー」

ビーチチェアの上に片胡座をかいて座っていたスクアーロは、真っ白な歯を見せて笑った。

「悪かったなぁ、買いに行かせちまって」

「そんな、気にしないでいいよ。あんな状態じゃ、ちょっと…ね」

私はちらっと後ろを振り返って苦笑した。
新しい海の家は海水浴客で大繁盛しているのだが、その大半が若い女性客だったのだ。
カウンターに向かって行列を作る女の子の群れにイケメンな彼氏を放り込むのは、それこそ獰猛な鮫の群れの中に肉を放り込むようなものだ。
絶対に女の子達に騒がれるだろう。
スクアーロの言い方を借りて言うなら、「う"お"ぉい、うぜぇぞぉぉー!」な事態になるに決まっている。

「ほらほら、とけない内に食べちゃって」

「ああ」

ブルーハワイのかき氷を一つスクアーロに渡して、私も彼の隣に腰を下ろした。
ここならパラソルの陰になって女の子達の目からスクアーロを隠してくれるし、涼しく休憩が取れる。

「…、く……う"ぉ"……」

スクアーロがアイアンクローでもするように右手で顔を覆い、指圧するみたいに親指でこめかみをグリグリした。
キーンってなってる。
キーンってなってる。

「お前は平気そうだなぁ」

「私はさっきジュース飲んだから。口の中が冷たくなってたから平気みたい」

確か、キーンってなるのは急な温度変化に反応して痛くなるんだったはず。
そう考えながら言うと、スクアーロは「そうか」と言ってかき氷を一睨みし、また食べ始めた。

「どう?美味しい?」

「甘い」

「あはは、練乳もかかってるしね」

「だが悪かねぇな、暑い日に冷たいもんを食うってのは」

「うん、風情があるよね。夏って感じがする」

「あぁ」

右手でスプーンを動かしてかき氷を食べているスクアーロの左手にそっと触れる。
いつもは革手袋をつけているけど、今日は布製の手袋だ。
ぴくっと反応した指が、ゆっくりした動きで緩やかに私の手を握った。
ボンゴレの技術者が造った高性能な彼の義手は、ただ誰かの血を流すためだけではなく、こうした優しい動作も出来るのだ。

「イタリアにもあるんだっけ、かき氷」

「グラニータかぁ?今度イタリアに来た時に食わせてやる」

「うん、楽しみにしてる」

早くその時が来るといいな。
そして願わくば、その日までスクアーロが無事に過ごせますように。
そして私が彼の傍に居続けられますように。

密かな祈りをこめて口にした氷は、甘く冷たく私の喉を滑り落ちていった。



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