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それは昼休みに入ってすぐのことだった。
一人の少女が綱吉達の前に仁王立ちで立ちはだかったのは。

「よう、なまえ」

山本が気さくに手をあげて笑いかける。

「ツナ、獄寺、俺の幼なじみのなまえだ」

なまえと呼ばれた少女は山本をちらっと見ると、すぐに綱吉達に視線を戻した。

「最近、騒ぎを起こしてるっていうのはあなた達?」

「いや、起こしてるっていうか、向こうから来てるっていうか…」

「なにそれ。武が怪我したのもあんた達のせいなんでしょ」

「そ、それは…」

「これ以上武を変なことに巻き込まないで」

そう言うと、彼女は足音荒く走り去っていった。

「なんだありゃ…」

「恐エェーー!」

「あの幼なじみとかいう女、お前に惚れてんじゃねぇのか」

「ハハ、それはないって。あいつは誰に対してもあんな感じだぜ。世話好きなんだよ」

「世話好きっつーか、ただのお節介女じゃねえか」

「う〜ん…でも俺はちょっとだけあの子の気持ちわかるかも」

「じゅ、10代目?」

「あ、いや、俺が同じ気持ちになったことがあるってわけじゃなくて、あくまでも言われる側から見て、のことだけどさ」

「山本の事が心配なんだなぁ、っていうのはわかるよ。ほら、ビアンキも最初はリボーンに家庭教師を辞めさせるために俺に嫌がらせしてたし。大事な人を危険な目に遭わせる人間を敵視するって感じなんじゃないかな」

「スミマセン10代目、俺の身内のことで10代目を悩ませてしまうなんて…!」

「い、いや、へーきへーき、全然気にしてないって!」

綱吉は苦笑いして誤魔化した。
どちらかというと、身内(ビアンキ)よりも本人(獄寺)に悩まされている気がする。

「10代目……俺……貴方で良かった……」

くうっと涙を飲んだ獄寺が感極まった声で呟く。
なんだか結婚情報紙のキャッチコピーみたいな台詞だ。

「悪い、俺ちょっと行って来るわ」

そう言うと、山本は駆け出した。
あっという間に見えなくなっていくその背中に、綱吉が手を振る。

「ちゃんと仲直り出来るといいなあ」


なまえは屋上にいた。
前に山本が飛び降りようとしたちょうどその辺りを見つめながら、体育座りでぼんやりしていた。

あんなことを言うつもりはなかったのだ。
でも、実際にあの三人が一緒にいるところを見てしまったら、つい口から出てしまっていた。

わかっている。
これは嫉妬だ。

沢田綱吉達とつるむようになってから山本は変わった。
それは良い変化ではあったが、昔から彼を知るなまえとしては、まるで置いてけぼりにされたようで寂しく感じたのだ。

ぐす、と鼻をすすった時、屋上に繋がる扉が重い音を立てて開かれたのが聞こえてきた。
慌てて腕で目元を拭う。

「やっぱりここにいたか」

「なにしにきたの…」

「んー?」

山本はにこにこ笑いながらなまえの隣に腰を降ろした。

「…甲子園連れてってくれるって言った」

「ああ、約束だ」

「今からそんなわけわかんないことで怪我なんかしてたらダメになっちゃうよ…」

「なまえは心配性だなー、大丈夫だって」

「心配にもなるよ。武ってば、無茶ばっかりするんだもん」

「なまえが見守っててくれてるからな。安心して無茶も出来る」

「馬鹿…もう知らない」

「そう言うなよ。俺、なまえがいないとダメなんだ」

「…ずるい」

山本がぽんぽんとなまえの頭を手の平で包むようにして叩く。

「だから、これからもよろしく」

「仕方ないなあ」

いつかは幼なじみという殻から抜け出せる日が来るかもしれない。
それまでは。

「武はほんと私が見てないとダメなんだから」

隣で朗らかに笑っている大好きな人を見守ろうと思う。
彼がどんな無茶をしても、それは大事な友達のため、仲間のためだとわかっているから。

自分はせめて見守ろう。
いつか並んで歩ける日が来る、その日まで。


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