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朝の9時。
広場ではマーケットが開かれ、様々な店が軒を連ねる。
いわゆる朝市だ。
屋台でホットワインを買い、アンティーク雑貨を物色していると、背後から声がかかった。

「Buon san Valentino,Signorina」

「…リボーン?」

日本にいるはずの10代目特別顧問が何故イタリアにいるのだろう。
そんな疑問を持ちつつ振り返る。
そこにはやはり、伊達男のヒットマンが佇んでいた。
ただ立っているだけなのに何故こうも男前なのか。
朝っぱらからこれだけの色香を漂わせている男の人はそういないだろう。

「プレゼントだ、子猫ちゃん」

「わっ」

薔薇の花束を渡されてしまった。

「全部で44本ある」

「そんなに?」

「ちゃんと意味があるんだぞ。知ってるか」

「ううん」

12本なら確かプロポーズだったはずだ。
それ以外はわからない。

「“不変の愛を誓う”」

歌うように告げたリボーンに、小さな箱を手渡される。

「お前にはこっちのほうがわかりやすいかもしれねぇな」

開けてみろ、と促されて箱を開く。
中には、燦然と輝くリングとハート型の可愛らしいチョコレートが入っていた。

「この俺がここまでするのはお前だけだ。この意味がわかるな?」

私はふるふると首を横に振った。

「そんなお馬鹿なところも可愛いが、あまり焦らすと怖い目にあうことになるぞ、お嬢ちゃん」

リボーンの目がギラリと光る。
思わず後退れば、素早く距離を詰めたリボーンに腰を抱き寄せられた。

「ちょ、リボーン!」

「バレンタインに相応しい店でディナーを予約してある。それまで時間はたっぷりあるからな。どれだけ俺がお前に夢中なのか、その心と身体にネッチョリ教えこんでやる。覚悟しろ」

「ネッチョリやだー!」

市場のおばさんが、あらあらまあまあと微笑ましそうに笑っているが、とてもじゃないがこっちはそんな余裕はない。

助けてくれそうな人もいない。

絶望的だった。

「見つけたぞ、リボーン!」

その時である。
私にとっての救世主が現れたのは。

「今日こそ殺ってやる!」

どこの殺し屋か知らないが、リボーンに恨みを持つらしいその男は、町中でいきなり銃をぶっぱなしてきた。

やれやれと、ボルサリーノを深く被り直して懐に手を入れたリボーンから、そっと離れる。
そして、私は全速力でその場から逃げ出した。

「後でお仕置きだぞ、なまえ」

リボーンの不機嫌そうな声を後ろに聞きながら、それでも振り向かずに私は走り続けたのだった。

もちろん、後でネッチョリお仕置きされた。


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