大抵の花嫁の父がそうであるように、娘が支度をしている間、家光は控え室で気を揉みながら過ごしていた。 うろうろと落ち着きなく行ったり来たりを繰り返す家光を横目に、リボーンは壁にもたれて静かに腕を組んでいる。 家光は喉の奥で唸り、涼しげな佇まいのヒットマンを睨んだ。 「お前は悔しくないのか!?」 丹精して育てた可愛い娘。 それをよその男にかっ攫われることが。 「いいや。まったく」 リボーンの返答は極めてクールなものだった。 「あいつはなまえにベタ惚れだからな。女に懐柔されるはずのない、超のつく手強い猛獣を落としたんだ。なまえを誇らしく思うことはあっても、悔しいとは思わねーな」 「俺は悔しい!!」 「だろうな」 リボーンは肩をすくめた。 「わたしもサナギになったら、ちょうちょになれる?」 なまえがまだよちよち歩きだった頃、黒曜ランドに家族で行った時に、サナギから生まれて飛び立ったばかりの蝶を見て、なまえはそう家光に尋ねてきたのを思い出す。 あの時は、子供というのは面白いことを考えるもんだなぁと感心したものだ。 あれから十余年。 ちょうちょになれるかと聞いた彼の娘は、彼のもとから旅立とうとしていた。 愛し、愛された男の腕の中へ。 「クソ!クソ!まさか、こんなに早くかっ攫われるとは思わなかった!」 「うるせーぞ家光」 うんざりした口調でリボーンが言う。 「そんなに嫌ならここで待ってろ。俺が代わりになまえとバージンロードを歩いてやる」 「それもイヤだ!!!!!」 リボーンはやれやれと肩をすくめた。 これではまるで駄々っ子だ。 もっとも、今でこそ少年の姿をしているものの、遥かに長い時を生きてきたリボーンからしてみれば家光は子供のようなものなのだが。 「お時間です」 式場の女性スタッフが呼びに来た途端、家光は表情を引き締めた。 女性スタッフに続いて控え室を出る。 教会のドアの前には、純白のウェディングドレスを着たなまえが待っていた。 「お父さん、かっこいい!」 「そ、そうか?」 輝くような笑顔でタキシード姿を褒められ、たちまち家光は相好を崩した。 ついてきたリボーンが呆れ顔になるほどデレデレになって娘の姿を見つめる。 純白のドレスに包まれた彼の愛する娘は、あの時の蝶よりも、ずっとずっと美しく見えた。 |