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一方その頃。
リボーンに撃たれたなまえは、霧に包まれた何処かの街角に呆然と立ち尽くしていた。

「ここ、どこ…?」

思わず辺りを見回すが、まったく見覚えのない場所だ。

灰色の石畳。
映画に出てきそうな古めかしい建物。
ガス灯だろうかと思われる明かりが薄ぼんやりとなまえを照らしている。
周囲に人の気配はない。

ジャンニーニのタイムマシンによって何処かに飛ばされたらしいという事だけは分かったが、いったいどの時代の何処に飛ばされたのかは不明である。
いつ戻れるのかも。

『Bar』と書かれた看板を見つけたなまえは、とりあえずそこに入ってみることにした。

入った途端、もわっと襲いかかってきた匂いは、恐らくは葉巻か何かの匂いだろう。
日本の喫煙所の匂いとはまた違ったクセのある匂いだ。

薄暗い店内は男性客ばかりで、テーブル席はほぼ満席状態だった。
カウンターにはスツールがなく、黒いスーツを着た男が一人立ったままグラスを傾けている。

近くのテーブルから聞こえてきた会話が耳に入り、なまえはそれがイタリア語である事に気が付いた。

「リボーン、こっちに来て一緒にやらないか」

カードを手にした男が椅子越しにカウンターを振り返る。

「リボーン!?」

なまえは驚いてカウンターの前に立つ男を見た。
リボーンと呼ばれたその男の傍らには、見覚えのある黒い帽子が置かれている。
大きさはかなり違うけれども、馴染みの専門店に特注で作らせているのだと前にリボーンが教えてくれた、あの帽子だ。

しかし、グラスを片手にこちらを向いた男は、どこからどう見ても成人男性で、なまえが知る赤ん坊ではなかった。

黒髪や髪型こそ同じだが、雲雀のそれと似た切れ長の瞳といい、シャープなラインを描く頬から顎にかけての曲線といい、鼻も、形のよい唇も、顔の造作すべてが美しく、まさしく美貌と呼ぶに相応しい容姿の男だった。

「本当にリボーンなの? 最強のヒットマンのリボーン?」

「そうだ」

酷薄な笑みを浮かべた唇から紡がれたのは、それだけで腰砕けになりそうな、深みのある甘い低音。
思いがけず耳にした大人の男としてのリボーンの声になまえはドキリとした。
これはちょっと──いや、かなり心臓に悪い。

「おいおいリボーン、愛人にしちゃ、そのお嬢ちゃんはちょいと幼過ぎるんじゃねえか?」

カードで遊んでいる男達の一団がいるテーブルからドッと笑い声が上がる。
あからさまな野次にもリボーンは軽く肩を竦めただけだった。

「馬鹿言え。こんなお子様に手ぇ出すような趣味はねぇぞ」

また笑い声が上がったが、それは馬鹿にしたものではなかった。
男同士のジョークというやつだろう。

戸惑うなまえを、リボーンは涼しげな切れ長の瞳をほんの僅かに細めるようにして眺めた。

「何処かで会ったことがあるか?」

「うん…たぶん、そうだと思うけど」

半信半疑のままなまえは彼に歩み寄った。



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