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情熱的なイタリアーナに比べてなまえはクールな女だと勘違いされがちだが、ただ単に感情表現が苦手なだけなのだ。
ルッスーリアはそんななまえをとてもよく理解してくれていた。
仕事の話や、ファッションや映画の話もするし、恋をした時には恋愛相談にものってくれる。
失恋した時には、広く逞しい胸で泣かせてくれた。

なまえにとってルッスーリアは気のおけない女友達とも言うべき大切な存在なのだった。


「ねえ、なまえ。どうしてもヴァリアーに来るのは嫌なの?」

メインの皿が片付けられて直ぐにルッスーリアが何気ない口調で切り出した。

「言ったでしょう。私、花粉症なのよ」

なまえは苦笑を浮かべて、これまでも何度となく使ってきた言い訳を繰り返す。

「ミッション中にくしゃみ連発してたら仕事にならないじゃない。まさか任務を選り好みするわけにもいかないし」

「またそんなこと言って……」

ルッスーリアのサングラスの上の眉が八の字を描いた。

「別に現場に出ろって言ってるわけじゃないのよ。内勤でも考えられない?」

なまえはいかにも深刻に悩むふりをして「うーん」と唸ってみせた。

「でもやっぱり今の仕事が好きだから……ごめんなさい」

「そう……そうね。私が悪かったわ」

ルッスーリアが運ばれてきたデザートに視線を落としたので、なまえもまたデザートに視線を移した。
飴細工のドームの中にケーキが二個並んでいる。


ルッスーリアがふうと溜め息をついた。

「貴女みたいな子にはもっとストレートに言わないとダメみたいね」

「え?」

てっきり話は終わったと思っていたのに。

ルッスーリアはフォークも持たず、テーブルの上で組んだ手に顎を乗せてこちらを見つめている。

「私の傍にいて欲しいって言ってるのよ」

「ど…どういう意味で?」

「そういう意味で。ねえ、なまえは私のこと嫌い?」

「大好きよ。でも───もしかして…そういう意味で?」

「そうよ。貴女みたいに気が合う人間は、男でも女でも貴女だけなんですもの」

「……………………………ちょっと待ってて貰ってもいい? せめて、これを食べ終わるまで」

「ええ、どうぞ。ゆっくり食べてちょうだい」


──これもいわゆる百合になるのかしら。

フォークで飴のドームを崩しながらなまえは完全に混乱していた。

この飴のドームみたいに、自分達の関係は今崩壊しようとしている。
その下にある二つのケーキをどうするか、デザートが終わるまでに何とか答えを出さなければならない。

しかし、サングラス越しにじっと注がれる眼差しに晒されながら考え事をするのは容易なことではなかった。



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