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次の日から私は桔梗さんを避けまくった。
あんな事があった後では会わせる顔がない。

ビジュアル系の麗しい外見とは裏腹に、桔梗さんはデキル男だ。
仕事に関しては有能この上ない。
そして女性に対しては極めて紳士的な人である。
だからはっきり怒れずに今までも嫌な思いをさせていたのかもしれない。
そう思うと、今後はあくまでも仕事上における必要最低限の会話を交わすだけにとどめて、もう二度とプライベートでは関わらないほうが良いのではないかと思えた。


実は私は“ヴァリアーじゃない桔梗さん”を知らない。

でも、幹部の人達の話では、桔梗さんは以前はボンゴレの人間ではなかったということだった。

私が桔梗さんと親しく話すようになったきっかけは、嫌味な上司に理不尽な理由で叱責されていたところを桔梗さんに助けて貰ったことだったが、その時にはもう桔梗さんはヴァリアーで仕事をしていた。

そんな人に迷惑をかけてしまっていたなんて、私は本当に馬鹿だ。
いっそ地面に穴を掘って埋まってしまいたい。


「あら、なまえじゃない」

落ち込みながらとぼとぼと廊下を歩いていると、誰かに呼びかけられた。

「ちょうどいいところに来たわ。ちょっといいかしら」

ルッスーリア様だ。
独創的なヘアスタイルをしたヴァリアーの幹部の一人に呼び止められた私は、「何かご用でしょうか」と尋ねた。
私のような、隊員ですらない一介の事務員に幹部の方から直接お声がかかるのは珍しい──とは言えない。
彼らはよく言えばフランクに、悪く言えば雑用係にちょうど良いとばかりに、私にアレコレと用事を言いつけてくるのだ。

「実はね、ジャッポーネに行って欲しいの」

「ジャッポーネ…沢田綱吉様の所ですか?」

私は慎重に“10代目”という単語は使わずに問い返した。
ここではそれは禁句なのだ。

「そうよ。ほら、相手が相手だけに、ね…。こんな事、貴女にしか頼めないのよ」

「わかりました。私でお役にたてるなら」

日本行きは今の私にはちょうど良い。
これで言い訳なんて要らずに暫く桔梗さんと顔を合わせずに済みそうだ。

ルッスーリア様から仕事の内容を聞き、いくつかの事項を確認した上で、私はその日の内に日本へと飛び立った。



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