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きっかけは調理実習の話題だった。

殆ど天才と言って良いほど頭のいい獄寺は、他の生徒のように勉強をしなくてもテストで点が取れてしまう。
そのせいか真面目に授業に出席することが少ない。

同じ理由で実習関係もフケることが多かった獄寺だが、今回は綱吉が熱心に勧めたこともあって、今度行われる調理実習に参加する事が決まっていた。

「じゃあ、獄寺君は料理苦手なの?」

「苦手というか……城の厨房には大抵いつもアネキがいたんで、料理はやったことがないんスよ」

「ああ…なるほど…」

獄寺の苦い表情から事情を察してなまえは苦笑した。
彼の腹違いの姉であるビアンキは、ポイズンクッキングという特技を持つ殺し屋なのである。
獄寺自身、幼少の頃からその姉の毒料理の被害に遭ってきたわけだから、もしかすると料理自体にもトラウマレベルの嫌悪感があるのかもしれない。

そう考えれば、生まれ育った城を飛び出してからも料理をした事がないというのも頷ける話だった。


「今回は10代目に誘われたんで、何とか頑張るつもりですが……やっぱり急には無理っスかね」

「うーん…そうだなぁ……料理もやっぱり経験の違いが出るものだから、いきなり上手にっていうのは無理かもしれないけど、とりあえず食べられれば大丈夫だと思うよ」

「そうですね……食べて腹を下したりするようなメシでなきゃ平気ですよね……」

そういう獄寺の表情は暗い。
ビアンキの料理を食べさせられて苦しんだ過去を思い出しているのだろう。
ビアンキも弟への愛ゆえの行為だったはずなのに、なかなか上手くいかないものだ。
どうにも大切な人に対する愛情が空回りしがちな姉弟である。

「俺の事はいいんです。ただ、10代目に俺のせいで恥をかかせるんじゃないかと思うと、心配で…」

「そっか…じゃあ、調理実習の日までに少し練習する?」

なまえの提案に、獄寺は「練習…」とあどけない顔で呟いてぱちくりと目を瞬かせた。
鋭い目付きの美形である彼がそんな仕草をすると、何だかとても可愛らしく見える。
ギャップ萌えというやつかもしれない。
なまえはちょっぴりキュンとした。

「うん、練習。獄寺君は独り暮らしだし、将来の事を考えても、料理は覚えていて損はないと思う。私でよければ力になるから」

「将来──そ、そうですよね、10代目の栄養管理も右腕の仕事の内っスよね!」

「そうそう、右腕の………ん?」

獄寺の瞳がキラキラ輝き出した。
今の会話で何か“右腕スイッチ”が入ってしまったらしい。

「分かりました。この獄寺隼人、10代目の為に死ぬ気で料理を覚えます!!」

「う、うん…頑張ってね」

10代目に手料理を食べさせて差し上げるんだー!と小躍りしかねない勢いで盛り上がる獄寺を見て、なまえは小さく「ワオ…」と呟いた。



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