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「あ、そうだ。ねえ、ベル」

彼がマグカップを手にしたのを見て私はふと思い出した事柄について尋ねてみることにした。

「今日一緒にいた子、ベルの知り合い?」

「んー?」

「ほら、電気屋で話してた」

今日、私は携帯ゲーム機を買いたいというベルを連れて大型家電ショップに出かけていた。
そこでちょっと別のフロアに用事があって別行動をした後で彼のもとに戻ると、ベルが知らない女の子と話していたのだ。

たぶん年齢は高校生くらい。
ベルとあまり変わらない年頃だと思う。
国民的美少女コンテストに出るような明朗快活で華のある美少女ではないが、「清楚な」だとか、「可憐な」といった感じの形容詞が似合う、ものすごく可愛らしい少女だった。
随分と親しげな様子だったのが少し気にかかっていたのである。

ベルは「ああ」と納得すると、綺麗な歯並びの白い歯を見せて笑った。

「うちのボスの婚約者」

「ベルのボスの?」

「そう。あいつも買い物に来てたんだってさ。だから一応挨拶しといたんだけど、スゲー偶然だよなあ」

ベルがマグカップを口に運ぶ。
口元も目元も隠れてしまって表情がよくわからないが、何だか楽しそうだ。


「あーウマい。このチープな味わいがたまんねー。これ飲むと日本に来たって感じがする」

そう笑ってベルはマグカップを置いた。

「あと、なまえとセックスした時な」

「ちょ、んなっ…!」

「ししっ、こんなんで照れんなよ」

ベルは初めて会った時と同じ、チェシャ猫みたいなニヤニヤ笑いを浮かべて、私の額を指でつついた。

ベルはこちらが面食らってしまうくらい早熟な少年だった。
彼の周囲の環境のせいというのが大きいだろう。
周りが年上の荒くれ男ばかりときては、まともな倫理観など身につくはずもない。
彼らが面白がって酒を飲ませたり娼館に連れていったりしたせいで、ベルは早くから悪い遊びを覚えてしまったらしい。

手順、駆け引き、そして、テクニック。
すべてにおいて大人顔負けなのだからタチが悪い。
初めてコトをいたした時に彼の実年齢を聞いて驚いたくらいだ。

「なあなまえ、さっきの話」

「うん?」

「もしかして相手がボスの女だって知らなくて、ヤキモチ焼いたとか?」

鋭い。

でも、ベルはからかうようなそれじゃなくて、なんていうか、優しい感じの笑い方をしていた。


「お前さあ、自分のほうが年上だからって考えてんのか、あんま俺に甘えたりとかしねーじゃん。確かにベタベタしすぎんのはウゼーかもだけど、もう少し甘えてもいいんじゃね?」

長い前髪の間からチラリと瞳が垣間見える。
涼しげな綺麗な目だと思った。
なんでベルは前髪で隠してるんだろう。もったいない。

「ヤキモチだって焼いていいんだって。そんなんで嫌いになるとかねーから安心しろよ」

「…なによう…もぅ…」

私はベルに抱きついた。
みっともない涙声になって恥ずかしい。

「もしかしたら世界中にいる現地妻の一人なのかもって悩んだりしてたのに…」

「ししっ、何だよそれ」

ベルが小さい子供にするみたいに私を膝に抱えあげる。
その腕は細い見かけと違って意外に力強く、私は簡単に抱っこされてしまった。

「女なんて何人もいらねーよ。んな面倒なのお前一人で十分だって」

「ベルってば、格好よすぎ」

ベルはいつものように笑って言った。


「だって俺王子だし」



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