スクアーロが病院に担ぎこまれたとき、幸いにもザンザスは日本に向かうジェット機の中だった。 報告を受けたボスの感想は、「ドカスが」。 どうやらすぐにかっ消される心配はなさそうだ。 「なまえはどうしてる」 リング争奪戦のときを彷彿とさせるほど全身を包帯でぐるぐる巻きにされたスクアーロは、治療と検査を受けてすぐ、恋人の安否をルッスーリアに尋ねた。 「怪我はなかったのかぁ? あいつもこの病院にいるんだろ?」 「ええ…ええ、そうよ、あの子もここにいるわ」 らしくもなく動揺した表情を見せた同僚に、スクアーロは微かな不安を感じた。 「生き埋めになってる間、なまえがずっと励ましててくれたんだぁ。礼を言わねえとなぁ」 「そんなはずはありません」 傍らにいた医師が困惑した様子で言った。 「とても言葉が話せるような状態ではなかったはずです」 「…なんだと?」 なまえはスクアーロの隣の病室にいた。 チューブや呼吸器によってかろうじて呼吸をしている彼女を見たスクアーロは愕然とした。 ベッドの上のなまえは完全に意識がなく、スクアーロよりも酷い状態だったからだ。 特に喉は……──。 「話せたはずがないのよ」 ルッスーリアが静かに言った。 「医者の話では、爆破に巻き込まれた直後に重傷を負って、それからずっと意識を失ったままだったんじゃないかって。喉がこんな状態じゃ声を出せたはずがないわ。かろうじて呼吸が可能だったぐらいで……」 「いや、俺は確かに聞いた。なまえの声を俺が間違えるわけがねぇ」 ルッスーリアは困ったような表情で「そうね」と笑い、病室を出て行った。 残されたスクアーロはベッドの横の椅子に座り、なまえの手を握った。 小さな手はちゃんと暖かい。 生きている。 「今度は俺の番だ」 暗闇の中、彼女はずっと呼びかけていてくれた。 スクアーロが闇に引きずり込まれてしまわないように。 もう一度青空の下に戻れるように。 だから今度は、 「お前が戻って来るまで、俺が傍にいて導いてやる。だから……必ず帰って来い」 何を話そうか。 とりあえず窓を見て、彼は「今日はいい天気だぜぇ」と話しかけた。 |